療養補償給付とは?支給される条件と申請手続きをわかりやすく


療養補償給付は、仕事中のけがや病気(業務災害)で療養が必要になった労働者に対し、労災保険が行う給付です。治療そのものを現物で受ける「療養の給付」と、費用を請求する「療養の費用の支給」の2つの形があります。
この記事では、療養補償給付の位置づけ、給付の内容と範囲、支給される条件、請求手続きを、2026年10月執筆時点の法令と公的資料をもとに整理します。あわせて、公共工事の現場運営との関わりにも触れます。
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- 療養補償給付は労災保険法第12条の8が定める業務災害の保険給付の1つで、療養の給付と療養の費用の支給がある
- 療養の給付の範囲は、診察、薬剤の支給、手術などの治療、入院、看護、移送の6項目である
- 支給の対象は業務遂行性と業務起因性が認められる傷病で、通勤災害は「療養給付」として別に扱われる
- 請求書は指定病院等で受けるか費用を請求するかで変わり、通勤災害の療養給付には一部負担金がある
療養補償給付とは?労災保険での位置づけ
療養補償給付は、労災保険の保険給付のうち、治療にかかわる給付を指します。災害の区分によって名称が変わるため、まず位置づけを整理します。
療養補償給付は業務災害に関する保険給付の1つ
労災保険法第12条の8第1項は、業務災害に関する保険給付として、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金、介護補償給付を挙げています。療養補償給付は、その先頭に置かれた、治療のための給付です。
労働基準法第75条は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合に、使用者が必要な療養を行い、または必要な療養の費用を負担しなければならないと定めています。労災保険の保険給付は、この災害補償の事由が生じた場合に行われます(労災保険法第12条の8第2項)。
災害の区分によって給付の名称が変わる
同じ療養の給付でも、災害の区分によって名称が異なります。請求書の様式も区分ごとに分かれているため、どの災害にあたるかを先に確認します。
| 災害の区分 | 給付の名称 | 根拠 |
|---|---|---|
| 業務災害 | 療養補償給付 | 労災保険法第12条の8第1項第1号 |
| 通勤災害 | 療養給付 | 労災保険法第22条 |
| 複数業務要因災害 | 複数事業労働者療養給付 | 労災保険法第20条の2第1項第1号 |
通勤災害の療養給付には、療養の給付の範囲を定める第13条が準用されます(第22条第2項)。そのため、給付の内容は業務災害の療養補償給付と同じ枠組みで考えられます。
療養補償給付で受けられる内容は?療養の給付と療養の費用
療養補償給付には、療養の給付と、療養の費用の支給の2つの形があります。どちらになるかは、受診先が指定病院等かどうかなどで分かれます。
療養の給付は指定病院等で現物給付として行われる
労災保険法第13条第1項は、療養補償給付は療養の給付とすると定めています。療養の給付は、労災保険の社会復帰促進等事業として設置された病院・診療所、または都道府県労働局長が指定する病院・診療所、薬局、訪問看護事業者(指定病院等)で行われます(施行規則第11条第1項)。
療養の給付は、治療などの療養そのものが給付される現物給付です。受診者が費用を立て替えて後から請求する形とは区別されます。
療養の給付の範囲は6項目
療養の給付の範囲は、同条第2項で次の6項目とされています。いずれも、政府が必要と認めるものに限られます。
- 診察
- 薬剤または治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
- 居宅における療養上の管理およびその療養に伴う世話その他の看護
- 病院または診療所への入院およびその療養に伴う世話その他の看護
- 移送
療養の費用の支給は療養の給付が困難な場合に行われる
政府は、療養の給付をすることが困難な場合その他厚生労働省令で定める場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給できます(第13条第3項)。受診者が費用を支払い、その費用の支給を請求する形です。
鹿児島労働局のページでは、指定病院等以外で療養を受けた場合のほか、治療用装具の作成や通院費も、この療養の費用の形で請求すると案内されています。
通勤災害の療養給付には一部負担金がある
通勤災害の療養給付では、労働者から一部負担金が徴収されます。労災保険法第31条第2項は、療養給付を受ける労働者から、200円を超えない範囲で厚生労働省令が定める額を徴収すると定めています。
| 項目 | 業務災害の療養補償給付 | 通勤災害の療養給付 |
|---|---|---|
| 給付の範囲 | 第13条 | 第22条第2項により第13条を準用 |
| 一部負担金 | 第31条第2項の対象外 | 200円(日雇特例被保険者は100円) |
額は施行規則第44条の2第2項で、200円(日雇特例被保険者である労働者は100円)とされています。同条第1項は、次の人からは徴収しないと定めています。
- 第三者の行為によって生じた事故により療養給付を受ける人
- 療養の開始後3日以内に死亡した人その他休業給付を受けない人
- 同一の通勤災害に係る療養給付について、すでに一部負担金を納付した人
療養補償給付が支給される条件は?
療養補償給付は、仕事が原因の傷病であることが前提です。ここでは、負傷と疾病に分けて、どのような場合に業務上と判断されるかを整理します。
負傷は業務遂行性と業務起因性が認められる必要がある
石川労働局の解説では、業務上の負傷と認められるには業務起因性が必要で、その前提として業務遂行性が必要とされています。業務遂行性は、労働者が労働関係のもとにあった場合に起きた災害かどうかで見られます。
同じ解説は、業務遂行性が認められる場合を、次の3つの類型に整理しています。なお、このページには更新日の表示がないため、実際の判断は所轄の労働基準監督署で確認してください。
- 事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
- 事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合(休憩時間に事業場構内にいる場合など)
- 事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合(出張や社用での外出など)
休憩時間中の私的行為が原因の災害は、業務災害とは認められないとされています。業務遂行性があっても、業務と傷病との間に因果関係がなければ、業務上とは扱われません。
業務上の疾病は労働基準法施行規則の別表に掲げる疾病が対象
疾病については、労働基準法第75条第2項が、業務上の疾病の範囲を厚生労働省令で定めるとしています。労働基準法施行規則第35条は、これを別表第1の2に掲げる疾病と定めています。
石川労働局の解説では、疾病は多数の原因が競合することが多く、単なる条件関係では足りず、業務と疾病との間に相当因果関係が認められて初めて業務上疾病として扱われるとされています。一般的な要件として、次の3つが挙げられています。
- 労働の場における有害因子が存在すること
- 健康障害を起こすのに足りる程度に有害因子へばく露したこと
- 発症の経過と病態が医学的に妥当であること
療養が必要な間は給付され、治ゆで療養の給付は終わる
労働基準法第75条は、「必要な療養」を使用者の責任としています。宮城労働局のページでは、完治していなくても、傷病の状態が安定し、治療してもこれ以上改善しない状態を「治ゆ(症状固定)」として扱うと説明されています。
治ゆの後に障害が残った場合は、障害補償給付など別の保険給付の対象になります(労災保険法第12条の8第1項)。治ゆかどうかの判断は個別の状況によるため、療養の継続や終了で迷う場合は、所轄の労働基準監督署に確認します。
療養補償給付の請求手続きはどう進めるのか?
請求書は、療養の給付か療養の費用かで、様式と提出先が変わります。厚生労働省の様式ダウンロードコーナーに掲載されている区分を整理します。
| 請求の内容 | 業務災害 | 通勤災害 | 提出先 |
|---|---|---|---|
| 療養の給付の請求 | 様式第5号 | 様式第16号の3 | 指定病院等を経由して、所轄の労働基準監督署長 |
| 療養の費用の請求 | 様式第7号 | 様式第16号の5 | 所轄の労働基準監督署長 |
| 指定病院等の変更の届出 | 様式第6号 | 様式第16号の4 | 新たに療養の給付を受ける指定病院等を経由して、所轄の労働基準監督署長 |
提出先の根拠は、施行規則第12条(療養の給付)、第12条の2(療養の費用)です。指定病院等の変更の提出先は、業務災害については同第12条第3項に定められています。
療養の給付は指定病院等を経由して請求書を提出する
療養の給付を受けようとする人は、請求書を、療養の給付を受けようとする指定病院等を経由して、所轄の労働基準監督署長に提出します(施行規則第12条第1項)。請求書に記載する事項は次のとおりです。
- 労働者の氏名、生年月日および住所
- 事業の名称および事業場の所在地
- 負傷または発病の年月日
- 災害の原因および発生状況
- 療養の給付を受けようとする指定病院等の名称および所在地
- 複数事業労働者である場合は、その旨
負傷または発病の年月日と災害の原因は事業主の証明を受ける
上の項目のうち、負傷または発病の年月日と、災害の原因および発生状況については、事業主の証明を受けなければなりません(施行規則第12条第2項)。災害が発生した事業場以外の事業場の事業主は、証明の対象から除かれています。
建設現場では、元請と下請のどちらが事業主として証明するかが問題になる場面があります。具体的な扱いは、所轄の労働基準監督署に確認してください。
指定病院等を変える場合は変更の届出が必要になる
療養の給付を受けている人が、受ける指定病院等を変更しようとするときは、届書を、新たに療養の給付を受けようとする指定病院等を経由して、所轄の労働基準監督署長に提出します(施行規則第12条第3項)。届書には、これまで療養の給付を受けていた指定病院等と、新たに受ける指定病院等の名称および所在地も記載します。
療養の費用は労働基準監督署に請求する
療養の費用の支給を受けようとする人は、請求書を所轄の労働基準監督署長に提出します(施行規則第12条の2第1項)。療養の給付の請求書にある項目に加えて、次の事項を記載します。
- 傷病名および療養の内容
- 療養に要した費用の額
療養補償給付の理解は公共工事の現場運営にどうつながるのか?
療養補償給付の仕組みは、条文を読む限り、工事の発注者が公共か民間かで区別されていません。建設現場でけがや病気が生じたときの対応を整理しておくことは、公共工事に取り組む会社にとっても、現場運営の土台になります。
- 業務災害の療養は、労災保険の療養補償給付として行われる
- 指定病院等で療養を受けるか、費用の支給を請求するかで、請求書の様式と提出先が変わる
- 通勤災害は療養給付として別に扱われ、一部負担金がある
公共工事は大手や実績のある会社のもの、と受け止められることがあります。ただ、入札参加の要件は制度として明確に定められており、要件を満たせば会社の規模にかかわらず参加できる仕組みです。
公共工事への参入に向けた全体像は、下記で詳しく確認できます。
よくある質問
- 業務災害のけがで、健康保険を使って受診できるのか?
-
健康保険法第1条は、労働者の業務災害以外の疾病、負傷などに関して保険給付を行うと定めています。業務災害は労災保険の対象のため、受診の際は仕事中のけがであることを医療機関に伝えます。すでに健康保険で受診した場合の手続きは、加入先の保険者や労働基準監督署に確認してください。
- 療養補償給付を請求できる期間は決まっているのか?
-
労災保険法第42条第1項は、療養補償給付を受ける権利を、行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅すると定めています。具体的な起算の考え方は個別の状況によるため、所轄の労働基準監督署に確認してください。
- 本人が故意に起こした事故や重大な過失でも、療養補償給付は支給されるのか?
-
労災保険法第12条の2の2第1項は、労働者が故意に負傷や疾病などを生じさせたときは、保険給付を行わないと定めています。同条第2項は、故意の犯罪行為や重大な過失などにより傷病を生じさせたときに、保険給付の全部または一部を行わないことができるとしています。
- 療養補償給付を受けると、休業補償給付も自動的に支給されるのか?
-
療養補償給付と休業補償給付は、労災保険法第12条の8第1項で別の保険給付として定められています。休業補償給付の支給を受けようとする人は、別に請求書を所轄の労働基準監督署長に提出します(施行規則第13条第1項)。
まとめ
療養補償給付は、労災保険法第12条の8が定める業務災害の保険給付の1つで、療養の給付と、療養の費用の支給の2つの形があります。療養の給付の範囲は、診察、薬剤の支給、治療、入院、看護、移送の6項目で、通勤災害では療養給付として扱われ、一部負担金があります。
支給の対象は、業務遂行性と業務起因性が認められる傷病です。請求書は、指定病院等を経由する療養の給付と、労働基準監督署に直接請求する療養の費用で分かれ、様式も業務災害と通勤災害で異なります。
本記事の内容は2026年10月執筆時点の情報のため、実際の請求にあたっては、所轄の労働基準監督署や厚生労働省の最新の様式で確認してください。
- 療養補償給付は業務災害の治療のための保険給付で、療養の給付と療養の費用の支給がある
- 支給の対象は、業務遂行性と業務起因性が認められる傷病である
- 通勤災害の療養給付には、200円の一部負担金がある
- 受診先が指定病院等かどうかで、請求書の様式と提出先を確認する
より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。
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