労災保険のアフターケアとは?対象となる傷病と申請の流れを解説


労災保険のアフターケアは、仕事中や通勤途中のケガや病気が治った後も、再発や後遺障害に伴う新たな病気を防ぐために、診察や保健指導などを行う制度です。対象はせき髄損傷など厚生労働省が定める20種類の傷病で、アフターケア手帳を持つ人は、労災保険指定医療機関で費用負担なく受けられます。
この記事では、アフターケアの位置づけ、対象となる傷病と対象者、アフターケア手帳の申請と更新の流れを、2026年10月執筆時点の厚生労働省の資料をもとに整理します。あわせて、公共工事に取り組む会社が労災保険の制度を理解しておく意味にも触れます。
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- アフターケアは労災保険法第29条の社会復帰促進等事業として行われ、診察・保健指導・保健のための処置・検査の4つの措置がある
- 対象傷病はせき髄損傷など20種類で、対象者の要件は障害等級などを傷病ごとに定めている
- 申請はアフターケア手帳交付申請書を所属事業場を管轄する都道府県労働局長へ提出し、申請できる期間は傷病ごとに異なる
- 手帳の有効期間は傷病ごとに異なり、更新は有効期間が満了する日の1か月前までに申請する
アフターケアとは?制度の目的と位置づけ
アフターケアは、ケガや病気が治った後の再発や、後遺障害に伴う新たな病気を防ぐための制度です。労災保険の給付とは別に、国の事業として行われます。
アフターケアの目的は症状固定後の再発や新たな病気の予防
厚生労働省のパンフレットは、仕事または通勤でケガや病気をした人に対し、治った後も、再発や後遺障害に伴う新たな病気の発症を防ぐことを目的としていると説明しています。そのために、必要に応じて診察、保健指導、保健のための処置、検査を行い、円滑な社会生活を営んでもらうとされています。
ここでいう「治った」とは、完全な回復だけを指すものではありません。医療を行ってもそれ以上の効果が期待できず、症状が安定した状態(症状固定)を含みます。
労災保険法第29条の社会復帰促進等事業として行われる
アフターケアは、労働者災害補償保険法第29条の社会復帰促進等事業として行われる制度です。同法施行規則第28条は、障害補償給付などの支給決定を受けた人、または支給を受けると見込まれる人のうち、厚生労働省労働基準局長が定める要件を満たす人に、診察や保健指導などの措置を行い、アフターケア手帳を交付すると定めています。
具体的な内容は、厚生労働省の「アフターケア実施要領」と「傷病別アフターケア実施要綱」で定められています。古い資料には「健康管理手帳」と書かれていることがありますが、現行の実施要領での名称はアフターケア手帳です。
受けられる措置は診察・保健指導・保健のための処置・検査の4つ
実施要領は、アフターケアの措置の範囲を次の4つとしています。具体的な内容や頻度は、傷病ごとに傷病別実施要綱で定められています。
| 措置 | 内容の例 |
|---|---|
| 診察 | 傷病ごとに定められた頻度で行う。せき髄損傷では、原則として1か月に1回程度 |
| 保健指導 | 診察の都度、必要に応じて行う |
| 保健のための処置 | 薬剤の支給のほか、傷病によって褥瘡処置、尿路処置、理学療法など |
| 検査 | 傷病ごとに定められた検査。振動障害では、末梢循環機能検査など |
診察から検査までの4つの措置は、アフターケア手帳を持つ人が費用負担なく受けられるとされています。
アフターケアの対象となる傷病は?
対象となる傷病は、実施要領で定められています。対象者の要件は、傷病ごとに異なります。
対象傷病は20種類
実施要領は、アフターケアの対象傷病を次の20種類としています。
- せき髄損傷
- 頭頸部外傷症候群等(頭頸部外傷症候群、頸肩腕障害、腰痛)
- 尿路系障害
- 慢性肝炎
- 白内障等の眼疾患
- 振動障害
- 大腿骨頸部骨折及び股関節脱臼・脱臼骨折
- 人工関節・人工骨頭置換
- 慢性化膿性骨髄炎
- 虚血性心疾患等
- 尿路系腫瘍
- 脳の器質性障害
- 外傷による末梢神経損傷
- 熱傷
- サリン中毒
- 精神障害
- 循環器障害
- 呼吸機能障害
- 消化器障害
- 炭鉱災害による一酸化炭素中毒
対象者の要件は傷病ごとに定められている
対象者の要件は、傷病別実施要綱が傷病ごとに定めています。厚生労働省のパンフレットは、一定の障害等級などを対象者の要件としていると説明しています。
「障害等級」とは、ケガや病気が治った後に身体に障害が残った場合に、その程度に応じて第1級から第14級までの14段階に区分したものです。傷病別の要件の例は、次のとおりです。
| 傷病 | 対象者の主な要件 |
|---|---|
| せき髄損傷 | 業務災害または通勤災害によるせき髄損傷で、障害等級第3級以上の障害補償給付などを受けている人、または受けると見込まれる人(症状固定した人に限る)。第4級以下でも、医学的に特に必要と認められる場合は対象になる |
| 頭頸部外傷症候群等 | 頭頸部外傷症候群、頸肩腕障害、腰痛のいずれかで、障害等級第9級以上の障害補償給付などを受けている人、または受けると見込まれる人(症状固定した人に限る)。第10級以下でも、医学的に特に必要と認められる場合は対象になる |
| 振動障害 | 業務災害による振動障害で、障害補償給付を受けている人、または受けると見込まれる人(症状固定した人に限る) |
| 人工関節・人工骨頭置換 | 業務災害または通勤災害で人工関節・人工骨頭を置換した人で、障害補償給付などを受けている人、または受けると見込まれる人(症状固定した人に限る) |
上の4つの傷病では、医学的に早期にアフターケアの実施が必要と認められることも要件に含まれます。振動障害は、通勤災害ではなく、業務災害によるものが対象とされている点に注意が必要です。
障害補償給付の支給決定前でも対象になる場合がある
実施要領は、障害補償給付などを「受けることが見込まれる者」について、請求から支給決定までにかなりの期間を要すると見込まれる場合であって、診断書やエックス線写真などで、支給要件を満たす障害等級に該当することが明らかな人としています。
支給決定を待たなくても、アフターケアの対象になる場合があるということです。該当するかどうかは、主治医の診断書などをもとに判断されます。
アフターケアの申請の流れは?
アフターケアを受けるには、まず「アフターケア手帳」の交付を申請します。申請の時期、申請先、受診までの流れを順に確認します。
新規の申請は治った日の翌日から傷病ごとの期間内に行う
新規の申請は、ケガや病気が治った日の翌日から起算して、アフターケア手帳の新規交付の有効期間として定められた期間内に行います。この期間は傷病によって異なります。
次の4つは、アフターケアを必要とする期間に定めがないため、いつでも申請できるとされています。
- せき髄損傷
- 人工関節・人工骨頭置換
- 虚血性心疾患等(ペースメーカ、除細動器を植え込んだ人)
- 循環器障害(人工弁、人工血管に置換した人)
それ以外の傷病は、申請期間を過ぎると申請できなくなる場合があります。治った日を把握しておくことが大切です。
申請書は都道府県労働局長へ提出する
提出先は、申請者の所属事業場を管轄する都道府県労働局長です。提出する書類は「アフターケア手帳交付申請書」(実施要領様式第2号)で、都道府県労働局や労働基準監督署の窓口にあるほか、厚生労働省のウェブサイトからもダウンロードできます。
申請書には、対象傷病コードと都道府県コードを記入します。コードの一覧は、厚生労働省のパンフレットに掲載されています。
申請から受診までの6つの流れ
手帳の新規交付の流れは、次のとおりです。
- 仕事または通勤によるケガや病気が治る(症状固定)
- アフターケア手帳交付申請書を都道府県労働局長へ提出する
- 都道府県労働局が内容を審査する
- 申請者に交付・不交付の決定通知書が送付される
- 交付の場合は、アフターケア手帳が届く
- 手帳を提示して、労災保険指定医療機関でアフターケアを受ける
アフターケアは、受診のたびに手帳を医療機関の窓口に提示して受けます。受診の結果は、手帳の所定の欄に記入してもらいます。
アフターケア手帳の有効期間と更新はどうなっているのか?
アフターケア手帳には有効期間があります。期間は傷病ごとに異なり、継続してアフターケアを受けたい場合は更新を申請します。
手帳の有効期間は傷病ごとに異なる
手帳の有効期間は、傷病別実施要綱が傷病ごとに定めています。主な傷病の申請期間と有効期間は、次のとおりです(厚生労働省パンフレット、令和8年6月1日改訂)。
| 傷病 | 新規の申請期間(治った日の翌日から) | 新規の有効期間(交付日から) | 更新後の有効期間 |
|---|---|---|---|
| せき髄損傷 | いつでも | 3年間 | 5年間 |
| 頭頸部外傷症候群等 | 2年間 | 2年間 | 更新不可 |
| 振動障害 | 2年間 | 2年間 | 1年間 |
| 大腿骨頸部骨折及び股関節脱臼・脱臼骨折 | 3年間 | 3年間 | 1年間 |
| 人工関節・人工骨頭置換 | いつでも | 3年間 | 5年間 |
上記以外の傷病の期間は、厚生労働省のパンフレットの一覧表で確認できます。頭頸部外傷症候群等は、新規交付の有効期間が終わった後は、手帳の更新ができません。
更新は有効期間が満了する日の1か月前までに申請する
手帳の有効期間が満了した後も継続してアフターケアを受けたい場合は、満了する日の1か月前までに更新を申請します。「アフターケア手帳更新・再交付申請書」(実施要領様式第3号)を、都道府県労働局長へ提出します。
更新の期限を超過すると、更新は認められません。都道府県労働局長から「有効期間満了のお知らせ」が事前に自宅へ届くとされていますが、期限は手帳の有効期間を見て把握しておく必要があります。
更新では、主治医が作成する「アフターケアの実施期間の更新に関する診断書」を添える傷病と、添えなくてよい傷病があります。せき髄損傷や人工関節・人工骨頭置換などは、診断書が不要です。
通院費が支給される場合がある
アフターケアの通院にかかる交通費は、一定の要件を満たす場合に、アフターケア通院費として支給されます。厚生労働省のアフターケア通院費支給要綱は、対象者の経済的負担を軽減するために支給するとしています。
支給の対象となる通院の主な要件は、次のとおりです。
- 住居地または勤務地と同一の市町村内にある、傷病の症状の措置に適したアフターケア実施医療機関への通院で、住居地または勤務地から片道2キロメートル以上であること
- 同一の市町村内にない場合は、隣接する市町村内または最寄りの実施医療機関への通院で、片道2キロメートル以上であること
- 片道2キロメートル未満でも、症状の状態からみて、交通機関を利用しなければ通院することが著しく困難な場合
申請は、「アフターケア通院費支給申請書」に通院費の額を証明する書類(原則として領収書)を添えて、手帳の交付を受けた都道府県労働局長へ月ごとに行います。通院費は、発生した翌月から5年を経過すると請求できなくなります。
労災保険の制度理解は公共工事への取り組みにどうつながるのか?
アフターケアは、労災保険の適用事業に係る労働者が対象になる制度です。条文上、工事の発注者が公共か民間かによる区分は設けられていません。
- アフターケアは、労災保険法第29条の社会復帰促進等事業として行われ、労災保険の適用事業に係る労働者が対象になる
- 後遺障害が残る労災では、障害補償給付の支給決定や見込みが、アフターケアの対象者の要件になる
- 労災保険の制度を理解しておくことは、労働者を使用して現場を運営する会社の土台になる
公共工事は大手や実績のある会社のもの、と受け止められることがあります。ただ、入札参加の要件は制度として明確に定められており、要件を満たせば会社の規模にかかわらず参加できる仕組みです。
公共工事への参入に向けた全体像は、下記で詳しく確認できます。
よくある質問
- アフターケアは、かかりつけの病院でも受けられるのか?
-
アフターケアを受けられるのは、労災病院や医療リハビリテーションセンター、総合せき損センターのほか、都道府県労働局長が指定する労災保険指定の病院・診療所・薬局に限られます。薬剤の支給は、労災保険指定薬局で受けます。
かかりつけの病院が指定を受けているかどうかは、病院の窓口や都道府県労働局で確認してください。
- アフターケア手帳を紛失した場合は、どうすればよいのか?
-
手帳を紛失または汚損したときや、記録欄に余白がなくなったときは、「アフターケア手帳更新・再交付申請書」で都道府県労働局長に再交付を申請します。再交付された手帳の有効期間は、元の手帳の有効期間が満了する日までです。
- 有効期間が満了した手帳は、返納する必要があるのか?
-
実施要領は、有効期間が満了した場合や、再発などで手帳が不要になった場合でも、交付を受けた手帳の返納は要しないとしています。ただし、都道府県労働局長から返還を求められた場合は、その指示に従います。
- 手帳の交付が不交付になった場合は、不服を申し立てられるのか?
-
不交付の決定があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に、厚生労働大臣に審査請求ができます。決定通知書には、審査請求と取消訴訟ができる旨が示されます。
まとめ
アフターケアは、労災保険法第29条の社会復帰促進等事業として行われる制度です。ケガや病気が治った後の再発や、後遺障害に伴う新たな病気を防ぐために、診察、保健指導、保健のための処置、検査を行います。
対象傷病はせき髄損傷など20種類で、対象者の要件は傷病ごとに定められています。申請は、アフターケア手帳交付申請書を所属事業場を管轄する都道府県労働局長へ提出し、更新は有効期間が満了する日の1か月前までに行います。
労災保険の制度を理解しておくことは、労働者を使用して現場を運営する会社の土台になります。本記事の内容は2026年10月執筆時点の情報のため、申請にあたっては、厚生労働省の資料や都道府県労働局で最新の内容を確認してください。
- アフターケアは、治った後の再発や新たな病気を防ぐ制度で、対象傷病は20種類
- 対象者の要件と手帳の有効期間は傷病ごとに異なるため、傷病別の要件を確認する
- 新規の申請は、治った日の翌日から傷病ごとの期間内に、都道府県労働局長へ行う
- 更新は有効期間が満了する日の1か月前までに申請し、更新の期限を過ぎると認められない
より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。
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