労務費とは?建設業の人件費との違いと計算方法を解説


労務費は、建設業の財務諸表では、工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料および手当などを指す原価の区分です。人件費と似た言葉ですが、完成工事原価報告書では別の区分として扱われています。
この記事では、労務費の意味、人件費との違い、公共工事での計算の考え方、2025年12月に完全施行された改正建設業法での労務費の扱いを、2026年10月執筆時点の公的資料をもとに整理します。あわせて、公共工事の入札との関わりにも触れます。
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- 労務費は、工事に従事した直接雇用の作業員への賃金や手当などで、完成工事原価報告書では経費の内訳である人件費とは別の区分になる
- 公共工事での労務費の計算は、公共工事設計労務単価、歩掛、数量を掛け合わせるのが基本で、設計労務単価には法定福利費などの必要経費は含まれない
- 令和7年12月12日に完全施行された改正建設業法では、通常必要と認められる労務費を著しく下回る見積りが禁止されている
- 公共工事の入札では、材料費や労務費などの内訳を記載した書類の提出が求められる
労務費とは?建設業の財務諸表での位置づけ
建設業の財務諸表には、国土交通大臣が定める勘定科目の分類があります。労務費の意味は、この分類の摘要で確認できます。
労務費は直接雇用の作業員への賃金や手当などを指す
国土交通省の告示(昭和57年建設省告示第1660号)は、完成工事原価報告書の「労務費」を、工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料および手当等と定めています。労務費は、自社で雇用している作業員の賃金などを、工事の原価として集計する区分です。
対象は工事に従事した作業員の賃金などのため、現場に出ない役員や、事務を担当する従業員の給与は、労務費とは別の区分で整理されます。
完成工事原価は4つの区分で報告される
完成工事原価報告書は、材料費、労務費、外注費、経費の4つの区分で作成します(建設業法施行規則の別記様式第十六号)。告示が定める各区分の摘要は、次のとおりです。
| 区分 | 告示が定める摘要 |
|---|---|
| 材料費 | 工事のために直接購入した素材、半製品、製品、材料貯蔵品勘定等から振り替えられた材料費 |
| 労務費 | 工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料および手当等 |
| 外注費 | 工種・工程別等の工事について素材、半製品、製品等を作業とともに提供し、これを完成することを約する契約に基づく支払額 |
| 経費 | 完成工事について発生し、または負担すべき費用のうち、材料費、労務費および外注費以外のもの |
労務費は、材料費や外注費と並ぶ原価の一区分です。自社の作業員の賃金なのか、外部へ支払う外注費なのかによって、記載する区分が変わります。
労務費と人件費の違いは何か?
労務費と人件費は、同じ賃金に関わる言葉ですが、財務諸表上は別の区分として扱われます。告示が定める区分を確認すると、違いが分かりやすくなります。
| 項目 | 労務費 | 人件費 |
|---|---|---|
| 表示される場所 | 完成工事原価報告書の労務費 | 完成工事原価報告書の経費の内訳(うち人件費) |
| 含まれるもの | 工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料および手当等 | 経費のうち、従業員給料手当、退職金、法定福利費および福利厚生費 |
| 内書きされる項目 | うち労務外注費 | 人件費そのものが経費の内書き |
完成工事原価報告書では別の区分として表示される
完成工事原価報告書では、労務費の下に「うち労務外注費」、経費の下に「うち人件費」という内書きの欄が設けられています。告示は、「うち人件費」を、経費のうち従業員給料手当、退職金、法定福利費および福利厚生費と定めています。
同じ従業員への支払いでも、工事に従事した作業員の賃金は労務費、従業員給料手当などは経費の人件費として、区分が分かれます。
損益計算書の販売費及び一般管理費にも人件費に当たる科目が並ぶ
損益計算書の様式には、販売費及び一般管理費の科目として、役員報酬、従業員給料手当、退職金、法定福利費、福利厚生費が並びます。工事原価に入らない本社の人件費は、こちらに記載します。
日常の会話では、人件費は役員や従業員に支払う給与全般を指して使われることがあります。見積書や社内の資料で人件費という言葉が出たときは、財務諸表上の区分のどこまでを含んでいるのかを確認しておくと、取り違えを防げます。
労務費の計算方法は?公共工事の積算の考え方
公共工事の予定価格を積算する場面では、労務費は単価と歩掛、数量から計算します。国土交通省の運用方針が、この考え方を示しています。
基本の式は労務単価×歩掛×数量
国土交通省の「『労務費に関する基準』の運用方針」は、請負契約における通常必要と認められる労務費を、「適切な職種の公共工事設計労務単価×施工条件等に照らして適切な歩掛×必要な数量」の式で位置づけています。式に出てくる3つの要素は、次のとおりです。
- 労務単価は、職種ごとの1日(8時間)当たりの賃金に相当する単価
- 歩掛は、単位施工量当たりに必要な人日(作業員が1日働く量)
- 数量は、その工事で施工する量
計算の流れを、仮定の数字で確認します。次の数値は流れを示すための仮定で、実際の単価や歩掛ではありません。
| 項目 | 仮定の数値 |
|---|---|
| 労務単価 | 1人日当たり20,000円 |
| 歩掛 | 1平方メートル当たり0.3人日 |
| 数量 | 100平方メートル |
| 労務費 | 20,000円×0.3人日×100平方メートル=60万円 |
公共工事設計労務単価は賃金相当分の単価
公共工事設計労務単価は、国や地方公共団体が公共工事の予定価格を積算する際に使う単価です。国土交通省の資料では、建設技能者の賃金相当額であり、雇用に伴う賃金以外の必要経費は含まれないと説明されています。
令和8年度の単価は、令和8年2月17日に国土交通省が発表し、令和8年3月から適用されています。全国全職種の単純平均は前年度比で4.5%の引き上げとなり、平成25年度の改定から14年連続の引き上げです。
運用方針は、労務費に含まれる賃金相当分の範囲を、公共工事設計労務単価の考え方に準拠して整理しています。含まれるものと含まれないものは、次のとおりです。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 含まれるもの | 基本給相当額(基本給、出来高給)、通常の作業条件や作業内容の労働に対する手当(家族手当、通勤手当、地域手当、住宅手当、現場手当、技能手当、精勤手当など)、実物給与(通勤用定期、食事の支給)、臨時の給与(賞与、臨時の賃金、退職金) |
| 含まれないもの | 時間外、休日、深夜の割増賃金、突貫手当、赴任手当など |
| 別に積算されるもの | 法定福利費、労務管理費、安全管理費などの必要経費(共通仮設費や現場管理費の項目で積算される) |
1日の作業時間が8時間でない場合は単価を調整する
公共工事設計労務単価は、1日8時間の労働を前提とした単価です。運用方針は、見積り時点で8時間を上回る、または下回る作業時間が見込まれる場合は、労務単価と歩掛を1時間当たりの値に直し、必要な作業時間を踏まえて見積書を作成するよう求めています。
8時間を超える労働を前提とする場合は、適切な時間外手当などを別に見積る必要があります。
労務費は建設業法でどのように扱われるのか?
令和6年の通常国会で、公共工事の品質確保の促進に関する法律、建設業法、入札契約適正化法を一体として改正する「第三次・担い手3法」が成立しました。請負契約で適正な労務費を確保するための規定が整い、改正建設業法は令和7年12月12日に完全施行されています。
| 規定 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 労務費を内訳明示した見積書 | 建設業者は、工事の種別ごとの材料費、労務費などの内訳を記載した見積書を作成するよう努める | 建設業法第20条第1項 |
| 著しく低い労務費の禁止 | 見積書に記載する材料費等の額は、通常必要と認められる額を著しく下回ってはならない。注文者も、著しく下回る変更を求めてはならない | 建設業法第20条第2項・第6項 |
| 原価割れ契約の禁止 | 注文者と建設業者のどちらも、通常必要と認められる原価に満たない請負代金での契約を結んではならない | 建設業法第19条の3 |
| 労務費に関する基準 | 中央建設業審議会は、建設工事の工期と労務費に関する基準を作成し、実施を勧告できる | 建設業法第34条第2項 |
労務費に関する基準は令和7年12月2日に勧告された
中央建設業審議会は、令和7年12月2日に「労務費に関する基準」を作成し、その実施を勧告しました。基準は、技能者の賃金の原資となる適正な労務費が、公共工事か民間工事かを問わず、下請を含むすべての段階の請負契約で確保されることを目指すものです。
基準値は、職種分野ごとに、労務単価(円/人日)に歩掛(人日/単位当たりの施工量)を掛けて、単位施工量当たりの労務費として示されます。労務単価には公共工事設計労務単価が、歩掛には国土交通省直轄工事の標準的な施工条件にもとづく標準値が使われます。
基準を著しく下回る見積りは違法になる
運用方針によると、基準と同じ施工条件のもとで、基準を著しく下回る水準で見積もることは違法です。基準を下回る見積りは、原則として不適正とされています。
一方で、施工条件によって、適正な労務費の額は変わります。運用方針は、次のように整理しています。
- 小ロット工事など歩掛が悪くなる工事では、基準より高い労務費が適正になる
- 歩掛が良くなる工事では、基準より低い労務費が適正になり、発注者が合理的な範囲で低くできないか交渉してもよい
- 機械の導入などで歩掛を改善して低く見積もる場合は、その歩掛で施工できる理由を説明できる必要がある
違反した建設業者は建設業法第28条にもとづく指導監督の対象に、違反した発注者は勧告と公表の対象になります。契約そのものが無効になるわけではありません。
原価割れ契約で原価とされる範囲
建設業法第19条の3が禁止する原価割れ契約でいう「通常必要と認められる原価」は、運用方針によると、直接工事費、共通仮設費と現場管理費からなる間接工事費、一般管理費(利潤相当額を含まない)の合計額です。
労務費は、このうち直接工事費の一部にあたります。労務費だけでなく、工事全体の原価を押さえたうえで価格を決めることが必要です。
労務費の理解は公共工事の入札にどうつながるのか?
公共工事の入札では、建設業者は入札の申込みの際に、材料費、労務費などの内訳を記載した書類(入札金額の内訳)を提出する必要があります(入札契約適正化法第12条第1項)。労務費をどの区分で、どの単価をもとに見積もるかは、入札の準備に直結します。
- 入札の申込みでは、材料費や労務費などの内訳を記載した書類を提出する
- 予定価格の積算には、公共工事設計労務単価が使われる
- 通常必要と認められる労務費を著しく下回る見積りは禁止されている
自治体によっては、国の規定に加えて、労務費等を明示した工事費内訳書の提出を求めています。三重県は、令和8年6月1日以降に公告または指名通知を行う建設工事で、労務費等を記載した工事費内訳書の提出を求めています。提出の方法や対象は発注者ごとに異なるため、案件ごとの公告で確認します。
公共工事は大手や実績のある会社のもの、と受け止められることがあります。ただ、入札参加の要件は制度として明確に定められており、要件を満たせば会社の規模にかかわらず参加できる仕組みです。
公共工事への参入に向けた全体像は、下記で詳しく確認できます。
よくある質問
- 労務外注費は労務費に含めてよいのか?
-
告示は、工種・工程別等の工事の完成を約する契約でその大部分が労務費であるものは、労務費に含めて記載できるとしています。完成工事原価報告書では、その支払額を「うち労務外注費」として内書きします。
- 公共工事設計労務単価は、下請への支払い賃金を決める基準なのか?
-
国土交通省の資料では、設計労務単価は公共工事の予定価格の積算用の単価で、個々の下請契約や雇用契約の賃金を拘束するものではないとされています。一方、労務費に関する基準は、適正な労務費を設計労務単価を計算の基礎とした水準として位置づけています。
- 労災保険料は労務費に含まれるのか?
-
基準における労務費は技能者の賃金相当分の額です。労災保険料は、見積書に内訳明示する法定福利費に含まれる費用として、運用方針で整理されています。元請として負担する労災保険料も含めて法定福利費を計算し、見積書を作成するとされています。
- 基準値と異なる額で見積もると、すべて違法になるのか?
-
運用方針は、基準と異なる額の見積りをすべて違法とはしていません。施工条件や会社の能力を踏まえて労務費を計算する必要があり、基準と同じ施工条件のもとで著しく下回る場合に違法とされています。
まとめ
労務費は、建設業の財務諸表で、工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料および手当などを指す区分です。完成工事原価報告書では、経費の内訳である人件費とは別の区分として表示されます。
公共工事での労務費は、公共工事設計労務単価、歩掛、数量を掛け合わせるのが基本です。令和7年12月に完全施行された改正建設業法では、通常必要と認められる労務費を著しく下回る見積りが禁止され、公共工事の入札でも労務費などの内訳を記載した書類の提出が求められます。
本記事の内容は2026年10月執筆時点の情報のため、最新の単価や基準値は、国土交通省の公表資料で確認してください。
- 労務費は直接雇用の作業員の賃金などで、経費の内訳である人件費とは別の区分になる
- 労務費の計算の基本は、公共工事設計労務単価×歩掛×数量で、必要経費は別に積算される
- 基準と同じ施工条件で労務費を著しく下回る見積りは違法になるため、施工条件を踏まえて適正に見積もる
- 公共工事の入札では内訳書の提出が求められるため、案件ごとの公告で提出方法を確認する
より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。
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