労災保険とは?建設業の加入義務と給付の種類・手続きを解説


労災保険とは、仕事中や通勤中のケガや病気などに備える国の保険制度です。建設業では、現場の工事について元請が事業主として扱われる独自の仕組みがあり、下請や一人親方の立場によって扱いが変わります。労働者を使用する事業であれば、業種や規模を問わず適用されるのが出発点です。
この記事では、労災保険の加入義務、給付の種類、建設業特有の保険関係、一人親方の特別加入、公共工事との関係を順に整理します。公共工事を目指す会社が混同しやすい、労災保険と社会保険の違いにも触れます。制度の内容は執筆時点の情報です。
2024年問題、人手不足、資金繰り…建設業界が直面する課題は山積みです。こうした環境だからこそ、経営の安定化には新たな収入源の確保が重要。この動画では、民間工事とは異なる公共工事という選択肢の実務的なポイントをおさえています。動画で基礎を理解した上で、記事の詳しい解説をご覧ください。
- 労災保険は労働者を使用する全事業に適用されて保険料は事業主が負担し、休業(補償)給付は休業4日目から給付基礎日額の60%が支給される
- 建設業の数次の請負では元請負人が事業主となり、一定の工事は一括有期事業として扱われる
- 一人親方の労災保険は義務ではなく、団体を通じた申請と承認による任意の特別加入である
- 労災保険は労働保険、許可要件となった社会保険は健康保険・厚生年金保険・雇用保険であり、両者は別の制度である
労災保険とは?建設業でも加入義務はあるのか?
労災保険の正式名称は労働者災害補償保険です。業務上の事由や通勤による労働者のケガ、病気、障害、死亡などに対して、必要な保険給付を行う制度です。
建設業も例外ではなく、労働者を使用する事業であれば労災保険の適用を受けます。制度の全体像は、次の表のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 業務災害や通勤災害にあった労働者への保険給付、社会復帰の促進など |
| 適用事業 | 労働者を使用する事業(業種や規模を問わない) |
| 対象となる労働者 | 職業の種類を問わず、事業に使用されて賃金を支払われる者(アルバイトやパートを含む) |
| 保険関係の成立 | 事業を開始した日に当然に成立し、事業主は成立から10日以内に届け出る |
| 費用の負担 | 事業主が負担する保険料でまかなわれ、労働者の負担はない |
労災保険が補償する災害の範囲
労災保険が対象とする災害は、業務災害と通勤災害が中心です。労災保険法の条文上は、複数の事業で働く労働者を対象とした複数業務要因災害も含まれています。
給付は、ケガの治療を受けたとき、仕事を休んだとき、障害が残ったとき、死亡したときなど、場面ごとに分かれています。社会復帰を支えるための事業も、あわせて行われています。
労働者を使用する事業に加入義務が生じる仕組み
労災保険法第3条第1項は、労働者を使用する事業を適用事業と定めています。建設会社が労働者を1人でも使用していれば、業種や規模にかかわらず労災保険の適用事業です。
保険関係は、事業が開始された日に法律上当然に成立します。届出をして初めて加入する仕組みではなく、事業主には成立した日から10日以内に所轄へ届け出る義務があります。
労災保険料を負担するのは事業主
労災保険の費用は、事業主が負担する保険料でまかなわれます。健康保険や雇用保険と異なり、労働者が保険料を負担する仕組みはありません。
なお、令和8年度の労災保険率、特別加入保険料率および労務費率は、令和7年度から変更されていません。建設事業の区分ごとの保険料率は、厚生労働省の資料で確認します。
労災保険にはどのような給付の種類があるのか?
労災保険の給付は、被災した労働者の状況に応じて複数に分かれています。業務災害では「補償」の付く名称、通勤災害では「補償」の付かない名称になります。
| 給付の種類 | 支給される主な場面 |
|---|---|
| 療養(補償)給付 | 業務上や通勤によるケガや病気で治療を受けるとき |
| 休業(補償)給付 | 療養のため仕事を休み、賃金を受けられないとき |
| 傷病(補償)年金 | 療養開始後1年6か月を経過しても治らないとき |
| 障害(補償)給付 | 治ったあとに障害が残ったとき |
| 遺族(補償)給付 | 労働者が死亡したとき |
| 葬祭料(葬祭給付) | 葬祭を行うとき |
| 介護(補償)給付 | 傷病年金や障害年金の受給者が介護を受けているとき |
| 二次健康診断等給付 | 一次健診で異常所見があるとき |
治療費を補う療養(補償)給付
療養(補償)給付は、ケガや病気の治療にかかる費用を補う給付です。医療機関での治療は原則として無料になる「療養の給付」と、費用を現金で支給する「療養の費用の支給」があります。
休業4日目から支給される休業(補償)給付
療養のため仕事を休んだ場合、休業4日目から給付基礎日額の60%が支給されます。給付基礎日額とは、給付額を計算する基準となる1日あたりの額です。
これとは別に、給付基礎日額の20%が休業特別支給金として支給されます。割合や金額は改定されることがあるため、申請の前に最新の内容を確認することが大切です。
障害が残った場合の障害(補償)給付
治ったあとに障害が残った場合は、障害の程度を示す等級に応じて給付が決まります。第1級から第7級は年金、第8級から第14級は一時金として支給されます。
死亡した場合の遺族(補償)給付
労働者が亡くなった場合は、生計を維持していた遺族に年金または一時金が支給されます。葬祭を行った人には、葬祭料(葬祭給付)が別に支給されます。
葬祭料の額は「33万円に給付基礎日額の30日分を加えた額」と「給付基礎日額の60日分」のいずれか高い方です(執筆時点)。
建設業の労災保険は元請が一括して加入するのか?
建設業の現場は、元請から下請、孫請へと工事が数次にわたって請け負われます。労災保険の面では、これを一つの事業とみなして扱う特別な仕組みがあります。
| 論点 | 建設業での扱い |
|---|---|
| 事業主となる者 | 数次の請負では元請負人のみが事業主とみなされる |
| 工事の区分 | 一括有期事業と単独有期事業に分かれる |
| 下請負人の扱い | 現場の工事の労災保険は元請の保険関係の中で扱われる |
数次の請負では元請負人が労災保険の事業主になる
労働保険徴収法第8条第1項は、建設の事業などが数次の請負で行われる場合、その事業を一つの事業とみなし、元請負人のみを事業主とすると定めています。施主から直接工事を受注した元請負人が、保険の加入者になります。
労働基準法第87条も、災害補償については元請負人を使用者とみなすと定めています。ただし、元請負人が書面による契約で下請負人に補償を引き受けさせた場合は、その下請負人も使用者となります。
なお徴収法第8条第2項には、元請負人と下請負人が申請して厚生労働大臣の認可を受けた場合に、下請負人を元請負人とみなす特例があります。例外の存在として押さえておくと十分です。
一括有期事業の対象になる工事の要件
建設工事のように期間があらかじめ決まっている事業を、有期事業といいます。規模の小さい工事は、工事ごとではなく年度単位でまとめて保険関係を処理する一括有期事業の対象になります。
大阪労働局の案内によると、一括有期事業の要件は、2015年4月1日以降の工事で次の2つです。両方を満たさない工事は、単独有期事業として個別の工事ごとに処理されます。
- 1工事の概算保険料が160万円未満であること
- 請負金額が1億8千万円未満(消費税額を除く)であること
2019年4月1日以降に開始する事業については、地域制限が廃止されています。金額要件は変更される場合があるため、個別の工事に当てはめる際は最新の内容を確認します。
下請の労働者に生じる労災保険の扱い
現場の工事に関する労災保険は、元請の保険関係の中で扱われるため、下請が工事ごとに別の保険関係を成立させる仕組みではありません。下請負人や孫請負人は、一括有期事業の保険加入者にはなりません。
一方で、下請会社が自社の事務所などで使用する労働者の扱いは、別の論点です。事情によって判断が分かれるため、迷った場合は所轄の労働基準監督署や労働局の窓口で確認します。
建設業の一人親方は労災保険に加入できるのか?
一人親方は労働者を使用せずに仕事をする自営業者で、労災保険法上の労働者にはあたりません。そのため、労災保険の対象になるには特別加入制度を利用します。
- 一人親方の労災保険は義務ではなく、任意の特別加入制度である
- 申請は特別加入団体を通じて行うのが基本である
- 加入には労働局長の承認が必要で、給付基礎日額も承認された額になる
一人親方の労災保険への特別加入制度の仕組み
特別加入は、労働者以外の人のうち、業務の実態や災害の発生状況から労働者に準じて保護するのがふさわしい人に、労災保険への加入を認める制度です。
厚生労働省の案内では、対象は次の5つの区分です。特定フリーランス事業従事者は、令和6年11月1日から新たに対象に加わりました。
- 中小事業主等
- 一人親方その他の自営業者
- 特定作業従事者
- 海外派遣者
- 特定フリーランス事業従事者
特別加入の申請から承認までの流れ
一人親方が特別加入する場合は、特別加入団体が所轄の労働基準監督署長を経由して、都道府県労働局長に申請書を提出します。承認を受けてはじめて、特別加入者として給付の対象になります。
特別加入は任意の制度のため、「一人親方は労災保険への加入が義務」と受け止めるのは正確ではありません。中小事業主の特別加入に必要な労働者数の上限など、個別の要件は厚生労働省の案内で確認します。
公共工事の要件として扱われる保険は労災保険なのか?
公共工事を目指す会社にとって、保険の加入は体制づくりの前提になります。ただし、労災保険と社会保険は別の制度であり、許可や入札の要件として語られるのは社会保険です。
| 区分 | 対象となる保険 | 保険料の負担 |
|---|---|---|
| 労働保険 | 労災保険、雇用保険 | 労災保険は事業主が全額負担 |
| 建設業許可で加入が要件化された社会保険 | 健康保険(介護保険を含む)、厚生年金保険、雇用保険 | 事業主と労働者で負担 |
社会保険の加入は建設業許可の要件になっている
国土交通省によると、令和2年10月1日から、建設業の許可と更新で社会保険の加入が要件になりました。対象となる保険は、健康保険(介護保険を含む)、厚生年金保険、雇用保険です。
労災保険はこの3つには含まれません。「社会保険の加入が許可要件だから労災保険も許可要件である」とは言えない点に注意が必要です。労災保険が入札参加の明示的な要件かどうかは、発注者ごとの公表内容で確認します。
社会保険に加入するメリットがあるのか、と疑問に思う場面もあります。

メリットは関係ありません。公共事業で税金をいただくわけです。その要件として社会保険というものがあります。そもそも社会保険には加入すべきものです。
直轄工事では社会保険等の未加入対策が進められた
国土交通省の直轄工事では、平成29年4月1日以降に入札契約手続を行う工事から、二次以下の下請業者も社会保険等の加入業者に限定されました。元請と一次下請は、すでに限定されていました。
平成29年10月1日以降の手続きでは、猶予期間内に加入確認書類が提出されない場合、元請業者に制裁金等が課される取扱いも始まりました。これは平成29年当時の発表内容で、現在の運用は国土交通省の最新の案内で確認します。
経審の社会保険未加入の減点は削除された
経営事項審査では、かつて雇用保険、健康保険、厚生年金保険の加入の有無が審査項目でした。令和8年7月1日施行の改正で、これらの項目は審査項目から削除されています。
経審の評価項目から外れたことと、建設業許可の要件として社会保険の加入が求められることは、別の話です。「経審の点数のために加入する」という考え方ではなく、制度上の前提として整理しておくと混乱しません。
労災保険や社会保険の加入状況を整えることは、公共工事に参加するための体制づくりの一部です。保険の仕組みを理解したうえで、元請として現場を動かす場面に備えることが、受注後の運営の土台になります。
公共工事は大手や実績のある会社のもの、と受け止められることがあります。ただ、入札参加の要件は制度として明確に定められており、要件を満たせば会社の規模にかかわらず参加できる仕組みです。詳しくは下記をご確認ください。
よくある質問
- アルバイトやパートも労災保険の対象になるのか?
-
労災保険の対象は、職業の種類を問わず、事業に使用されて賃金を支払われる人です。雇用形態は問われないため、アルバイトやパートも対象に含まれます。
- 給付の名称に「補償」が付くものと付かないものがあるのはなぜか?
-
業務災害の場合は「療養補償給付」のように「補償」が付き、通勤災害の場合は「療養給付」のように付きません。給付の内容は同じ種類で、災害の区分によって名称が分かれています。
- 労災保険の制度や請求書の書き方を相談できる窓口はあるのか?
-
厚生労働省が労災保険相談ダイヤル(0570-006031)を設けています。受付は月曜から金曜の8時30分から17時15分で、祝日と年末年始は除かれます。進行中の請求については、所轄の労働局または労働基準監督署が窓口です。
- 令和8年度の労災保険率は変更されたのか?
-
厚生労働省によると、令和8年度の労災保険率、特別加入保険料率および労務費率は、令和7年度から変更されていません(執筆時点)。
まとめ
労災保険は、労働者を使用する事業であれば業種や規模を問わず適用される制度で、保険料は事業主が負担します。給付には療養、休業、障害、遺族などがあり、建設業では元請負人が事業主として扱われます。
一人親方は労働者ではないため、任意の特別加入によって労災保険の対象になります。また、許可要件となった社会保険と労災保険は別の制度です。両者を区別して理解することが、公共工事に備える体制づくりの出発点になります。
- 労働者を使用する事業は労災保険の適用事業であり、保険関係は事業開始日に当然に成立する
- 建設業の数次の請負では元請負人が事業主となるため、自社の工事の位置づけを確認する
- 一人親方の労災保険は任意の特別加入であり、団体を通じた申請と承認が必要になる
- 労災保険と、許可要件である社会保険を区別して、公共工事に向けた体制を整える
より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。
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