労災申請の流れとは?建設業の手続き手順と必要書類を解説


建設現場でケガをした労働者が労災保険の給付を受けるには、請求書を労働基準監督署(労基署)に提出する必要があります。労災申請の流れは、医療機関での受診、請求書の提出、労基署の調査、支給決定の順に進みます。
この記事では、建設業の労災申請の手順、必要書類、申請期限、会社が担う役割を、厚生労働省などの公開情報をもとに整理します。あわせて、してはならない労災かくしの扱いも確認します。制度は2026年9月の執筆時点の情報です。
2024年問題、人手不足、資金繰り…建設業界が直面する課題は山積みです。こうした環境だからこそ、経営の安定化には新たな収入源の確保が重要。この動画では、民間工事とは異なる公共工事という選択肢の実務的なポイントをおさえています。動画で基礎を理解した上で、記事の詳しい解説をご覧ください。
- 労災申請は、医療機関での受診後に様式に応じた請求書を提出し、労基署の調査を経て支給が決まる
- 療養補償給付と休業補償給付の請求権は2年、障害補償給付と遺族補償給付は5年で時効になる
- 事業主には手続きへの助力と証明の義務があり、労働者死傷病報告は給付の請求とは別の手続きである
- 労災かくしは適法ではなく、50万円以下の罰金の対象になる
労災申請の流れとは?被災から支給決定までの手順
労災申請は、被災した労働者(または遺族)が請求書を出し、労基署が業務との関係を調べて支給を決める手続きです。全体は次の5つの段階で進みます。
- ケガの応急対応を行い、医療機関で受診する
- 給付の種類に応じた請求書を用意し、事業主の証明欄などを埋める
- 請求書を提出先(医療機関または労基署)へ出す
- 労基署が業務との関係などを調査する
- 支給または不支給が決定し、通知が届く
被災直後は応急対応を行い医療機関で受診する
建設現場で事故が起きたときは、まず負傷者の安全確保と応急対応が最優先です。そのうえで医療機関を受診します。
受診先が労災病院や労災指定医療機関であれば、療養の費用を労災保険から直接支払う「療養の給付」の手続きに進めます。受診の時点で、業務中のケガであることを医療機関へ伝えておくと、その後の請求書の手続きが進めやすくなります。
請求書の提出先は受診した医療機関で変わる
療養補償給付の請求書は、受診先が労災指定医療機関かどうかで様式と提出先が分かれます。休業補償給付の請求書は、所轄の労基署へ提出します。
| 給付の内容 | 請求書の様式 | 提出先 |
|---|---|---|
| 療養補償給付(労災指定医療機関で受診) | 様式第5号 | 受診した医療機関を経由して所轄の労基署 |
| 療養補償給付(指定医療機関以外で受診) | 様式第7号 | 所轄の労基署(いったん費用を負担したうえで請求) |
| 休業補償給付 | 様式第8号 | 所轄の労基署 |
通勤災害の場合は、療養給付などの様式が別に用意されています。この記事は業務災害を中心に扱うため、通勤災害の様式の詳細は厚生労働省の案内で確認してください。
労基署は調査を行い支給または不支給を決定する
請求書を受け付けた労基署は、ケガが業務と関係しているかなどを調査します。必要に応じて追加の資料の提出を求められることがあります。
調査の結果、支給または不支給が決まり、労基署から支給決定の通知が届きます。請求から決定までの期間は事案によって異なるため、目安の日数は示されていても断定はできません。
労災申請に必要な書類は?請求書の様式を解説
労災申請の書類は、受け取りたい給付ごとに請求書の様式が分かれています。建設現場の事故で使う頻度が高いのは、療養補償給付と休業補償給付の請求書です。
療養補償給付の請求書は指定医療機関かどうかで選ぶ
労災指定医療機関で受診した場合は様式第5号、それ以外の医療機関で受診した場合は様式第7号を使います。様式第7号の請求では、領収証書や明細書などの添付資料が必要になります。
どちらの様式を使うかは、受診した医療機関が労災指定かどうかで決まります。受診前に医療機関へ労災指定の有無を確認しておくと、窓口での手続きが整理しやすくなります。
休業補償給付の請求書は様式第8号を使う
仕事を休んだ期間の補償を求めるときは、様式第8号の休業補償給付支給請求書を所轄の労基署へ出します。休業した全日数分をまとめて請求する方法と、分割して請求する方法があります。
長期の休業では、1か月ごとの請求が便利と案内されています。所定労働時間の一部だけ働いた日がある場合は、様式第8号に別紙2を添付します。
様式は厚生労働省のサイトから入手できる
請求書の様式は、厚生労働省のサイトからダウンロードできます。OCR対応の様式やブラウザ上で入力できる様式も用意されています。
押印や署名がなくても受け付ける取扱いに見直されており、記名欄や証明欄に氏名と住所が書かれていれば足りるとされています。ただし適用の細部は変わる場合があるため、提出前に最新の案内を確認しておくと安心です。
請求書は記入前に4つのポイントを確認する
書類の不備による手戻りを防ぐため、記入前に次の点を確認しておきます。
- 給付の種類に合った様式かどうか(療養か休業か、業務災害か通勤災害か)
- 事業主の証明欄を誰がどの時点で記入するか
- 医療機関の証明が必要な欄があるかどうか
- 不明点は労災保険相談ダイヤル(0570-006031)や所轄の労基署へ問い合わせる
労災保険相談ダイヤルは、平日8時30分から17時15分まで(祝日と年末年始を除く)の受付です。請求書の記載方法や支給要件といった一般的な制度の問い合わせ先にあたります。
労災申請の期限はいつまでか?時効の考え方
労災保険の給付には、請求できる期間に限りがあります。期限を過ぎると権利が時効で消滅するため、給付の種類ごとの時効を把握しておくことが大切です。
| 給付の種類 | 時効 | 時効の数え始め |
|---|---|---|
| 療養補償給付 | 2年 | 費用を支出した日ごとに、その翌日から |
| 休業補償給付 | 2年 | 賃金を受けない日ごとに、その翌日から |
| 葬祭料 | 2年 | 被災した労働者が亡くなった日の翌日から |
| 障害補償給付 | 5年 | 傷病が治癒した日の翌日から |
| 遺族補償給付 | 5年 | 被災した労働者が亡くなった日の翌日から |
休業補償給付の時効は賃金を受けない日ごとに進む
休業補償給付は、賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年で時効になります。休業が長引くと、早い日の分から順に時効にかかっていく点に注意が必要です。
請求を後回しにせず、休業期間が区切れるたびに分割して請求しておけば、時効による取りこぼしを防ぎやすくなります。
時効を過ぎた場合の扱いは労基署へ相談する
時効が過ぎると、権利は時効によって消滅します。労働局も請求手続きは早めに行うよう案内しています。
やむを得ない事情がある場合の扱いについて、公的な案内では確認できていません。期限が迫っている、または過ぎてしまった場合は、自己判断せず所轄の労基署へ相談するのが基本です。
なお、令和8年の法改正により、療養補償給付などの請求権の時効は、政令で定める一部の疾病について2年から5年に延長される予定です。施行は令和9年4月1日の予定で、2026年9月時点では未施行です。建設現場のケガの請求では、現行の2年を基準に考えます。
労働者死傷病報告の提出期限は休業日数で変わる
労災保険の請求とは別に、事業者には労働者死傷病報告を労基署へ出す義務があります。労働災害で労働者が死亡または休業したときは、遅滞なく提出します。
休業が4日未満の場合は、四半期ごとにまとめ、各期間の最後の月の翌月末日までに報告できます。2025年1月1日からは電子申請が義務化されており、パソコンがないなど電子申請が難しい場合は、当分の間、書面での報告も認められています。
死傷病報告は事業者の報告義務で、被災労働者や遺族が行う給付の請求とは別の手続きです。給付の請求を済ませたことが、死傷病報告を出したことにはならない点を押さえておく必要があります。
労災申請で会社が担う役割は?
労災申請の請求人は被災した労働者や遺族ですが、会社にも果たすべき役割があります。主な役割は次のとおりです。
- 請求書の事業主証明欄を記入する
- 本人が手続きを自分で行えないときに助力する
- 労働者死傷病報告を労基署へ提出する
事業主には手続きを助ける義務がある
労災保険法施行規則第23条は、給付を受ける人が事故のために自分で手続きを行うことが難しい場合、事業主がその手続きを助けなければならないと定めています。給付を受ける人から証明を求められたときは、事業主は速やかに証明する必要があります。
建設現場の事故では、被災者本人が入院中で書類を準備できない場面が少なくありません。会社が請求書の記入を手伝い、証明欄を速やかに埋める対応が求められます。
事業主証明欄に疑問がある場合は空欄にできる
事業主は、請求書の内容が正確かどうかを確認したうえで証明欄を記入します。災害の事実や業務上かどうかに疑義がある場合は、証明欄を空欄にすることもできます。
空欄で提出した場合は、労基署から理由の照会があります。疑義があるまま安易に証明するのではなく、事実関係を確認してから記入するのが基本です。なお、休業補償給付の2回目以降の請求が離職後である場合は、事業主証明は不要とされています。
建設現場の下請の労働者にも元請の労災保険が関わる
建設業は、数次の請負で工事が行われることが多い業種です。労働保険徴収法第8条により、こうした建設の事業は一つの事業とみなされ、元請負人のみが事業主として扱われます。
そのため、下請や孫請の労働者が現場で被災した場合も、元請の労災保険が関わります。ただし、請求書の事業主証明欄を誰が記入するかといった運用は現場や労基署の案内によって異なる場合があるため、所轄の労基署に確認してください。
一人親方などの個人事業主は、労災保険法上の労働者にあたりません。労災保険の対象になるのは、特別加入制度を任意で利用している場合です。
労災かくしとは?罰則の対象になる理由
労災かくしとは、労災事故の発生を隠すために、労働者死傷病報告を故意に提出しないこと、または虚偽の内容で提出することをいいます。労災申請の場面で誤った判断をしないよう、リスクを確認しておきます。
労災かくしは労働安全衛生法違反にあたる
労働者死傷病報告は、労働安全衛生法と労働安全衛生規則に基づく事業者の義務です。報告をしない、虚偽の報告をする、または出頭しないといった行為は、労働安全衛生法第120条第5号により50万円以下の罰金の対象になります。
「軽いケガだから」「元請に知られたくないから」といった理由であっても、労災かくしは適法ではありません。手続きに迷う場合は、隠すのではなく所轄の労基署へ相談する方法が正規の手順です。
労災かくしは罰金以外のリスクももたらす
労災かくしには、罰金のほかにも次のようなリスクがあります。
- 50万円以下の罰金という刑事上の責任
- 災害原因の調査と再発防止策が妨げられ、同じ事故が繰り返されるおそれ
- 被災した労働者が適切な治療を受けられず、後遺症が残る可能性が高まること
- 安全配慮義務違反などによる、民事上の損害賠償を問われる可能性
労働局は、労災かくしが被災者の治療と再発防止の両面に悪影響を及ぼすと説明しています。事故が起きたときは、労災保険の請求と死傷病報告の両方を正規の手続きで進めることが、会社を守ることにもつながります。
労災が発生したときの手続きを整えておくことは、元請と下請が連なる建設現場で工事を進めるうえでの基本です。こうした労務面の備えは、公共工事への参入を検討する際の準備の一部にもなります。
公共工事は、大手や実績のある会社のものと受け止められることがあります。ただ、入札参加の要件は制度として定められており、要件を満たせば会社の規模にかかわらず参加できる仕組みです。
よくある質問
- 労災申請は被災した本人と会社のどちらが行うのか?
-
労災保険給付の請求は、被災した労働者本人または遺族が行う手続きです。会社は事業主証明欄の記入などで関わり、本人が手続きを行えない場合は助力する義務があります。
- 通勤災害の場合も同じ請求書を使うのか?
-
通勤災害は、業務災害とは別の請求書の様式が用意されています。療養給付の場合は様式第16号の3や第16号の5などが該当するため、厚生労働省の様式一覧で確認してください。
- 休業の最初の3日間は誰が補償するのか?
-
休業の最初の3日間は、労働基準法に基づき事業主が平均賃金の60%を補償する仕組みです。4日目以降は、労災保険の休業補償給付の対象になります。
- 請求書の書き方が分からないときはどこへ相談すればよいのか?
-
請求書の記載方法や支給要件といった一般的な内容は、労災保険相談ダイヤル(0570-006031)で問い合わせられます。すでに請求を済ませている場合は、所轄の労働局や労基署が窓口です。
まとめ
労災申請は、医療機関での受診後に給付に応じた請求書を提出し、労基署の調査を経て支給が決まる流れで進みます。療養補償給付は様式第5号または第7号、休業補償給付は様式第8号を使い、提出先は受診先や給付の種類で異なります。
請求権には時効があり、療養補償給付と休業補償給付は2年、障害補償給付と遺族補償給付は5年です。会社には証明と助力の役割があり、労働者死傷病報告は請求とは別に行う義務で、労災かくしは適法ではありません。
- 労災申請は受診、請求書の提出、労基署の調査、支給決定の順に進む
- 請求権の時効は給付の種類ごとに2年または5年で、休業補償給付は日ごとに進む
- 事業主は証明と助力を担い、労働者死傷病報告は給付の請求とは別に期限内に提出する
- 手続きに迷うときは労災かくしをせず、所轄の労基署や相談ダイヤルへ問い合わせる
より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。
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