実行予算とは?建設業における役割と積算から作成までのポイント

実行予算とは?建設業における役割と積算から作成までのポイント
監修情報

水嶋 拓

フロンティアマーケティング株式会社代表取締役。2009年から公共工事コンサルタントとして活動し、450社以上の中小建設会社の経営を支援。2017年に同社を設立し、現在は公共工事研究会も主宰している。著書に『日本一ハードルの低い公共工事の始め方』。

実行予算は、受注した工事を完成させるために、受注金額の範囲で原価を組み立てる社内の計画です。民間の解説では広く使われている言葉ですが、法令や公的な積算基準で定められた用語ではありません。

この記事では、実行予算の位置づけ、積算や見積書との違い、費目の構成、作成から管理までの流れを、2026年10月執筆時点の公的資料と民間の解説をもとに整理します。あわせて、公共工事で原価の把握が重視される背景にも触れます。

公共工事入札について、一般的な情報だけでは見えない視点があります。この動画で実務的なポイントを先に理解することで、記事の内容がより腹落ちしやすくなります。動画を見てから記事を読み進めることをおすすめします。

この記事で分かること
  • 実行予算は受注後に社内で組む原価計画で、法令や公的な基準で定められた用語ではない
  • 積算は工事費を算出する作業、見積書は契約前に注文者へ示す書類、請負代金内訳書は発注者へ提出する書類で、実行予算とは目的が異なる
  • 費目は、完成工事原価報告書の区分に合わせて材料費・労務費・外注費・経費で組むと、完成後の実績と対応させやすい
  • 令和7年12月12日からは受注者にも原価割れ契約の禁止が適用され、入札前から原価の見通しを持つことが重要になる
目次

実行予算とは?建設業での位置づけ

実行予算は、受注した工事ごとに原価を組み立てる社内の計画です。まず、何を指す言葉なのか、法令との関係はどうなっているのかを確認します。

実行予算は受注金額の範囲で工事を完成させる原価計画

民間の解説では、実行予算は受注金額の中で工事を完成させるための原価計画とされています。受注を取るための価格根拠である見積とは目的が異なり、受注が確定した後に、施工計画に基づいて組み直すものと説明されています。

基本予算や見積をもとに作成し、工事の進み具合に合わせて更新するのが一般的、とする解説もあります。

実行予算は法令上の用語ではない

建設業法とその施行規則、公共工事標準請負契約約款、国土交通省の積算基準を確認した範囲では、「実行予算」を定義した規定や、作成を義務づける規定は見当たりませんでした。

そのため、実行予算の様式や作り方は、会社ごとに決めるものです。この記事では、公的資料に基づく内容と、民間の解説による内容を分けて紹介します。

実行予算を組む3つの目的

民間の解説の内容を整理すると、実行予算を組む目的は次の3つです。

  • 受注金額に対して、工事の原価がどこまで見込まれるかを事前に把握する
  • 協力会社への発注額や、自社で投入する人員の目安を決める
  • 施工中に実績と比べ、原価の超過を早く見つける

実行予算と積算・見積書・請負代金内訳書の違いは?

似た言葉が多いため、作る時期と提出先で整理すると違いが分かります。実行予算だけが、発注者や注文者に出さない社内の資料です。

区分主な内容作る時期提出先
積算工事に必要な費用を積み上げて算出する作業入札や見積の前社内の算出作業のため、提出先はない
見積書契約前に示す工事費の内訳。建設業法第20条が、材料費等記載見積書の作成に努めるよう定めている契約の前注文者
請負代金内訳書設計図書に基づいて作成する内訳。材料費、労務費、法定福利費などを明示する契約に伴って作成する(期限は発注者の契約書による)発注者
実行予算受注金額の範囲で工事を完成させるための原価計画(民間の解説)受注が確定した後社内資料のため、提出先はない

積算は工事費を算出する作業で、実行予算の前段にあたる

積算は、工事に必要な費用を積み上げて算出する作業です。発注者側の積算は予定価格のもとになり、受注者側では入札金額を決める数字の根拠になります。

民間の解説では、見積予算は営業段階の歩掛と単価で作り、実行予算は施工計画に基づいて数量や単価を拾い直す、と説明されています。積算で出した金額が、そのまま実行予算になるわけではありません。

見積書は契約前に注文者へ示す書類

建設業法第20条第1項は、建設業者が請負契約を締結するに際して、材料費、労務費などの内訳と、工程ごとの作業に必要な日数を記載した見積書(材料費等記載見積書)を作成するよう努めることを定めています。注文者から請求があったときは、契約が成立するまでに交付する必要があります(同条第4項)。

材料費等記載見積書に関する規定は、令和7年12月12日に施行されました。

請負代金内訳書は発注者へ提出し、当事者を拘束しない

公共工事標準請負契約約款の第3条は、受注者が設計図書に基づいて請負代金内訳書と工程表を作成し、発注者に提出することを定めています。内訳書には、材料費、労務費、法定福利費、安全衛生経費、建設業退職金共済契約に係る掛金を明示します。

内訳書と工程表は、約款の他の条項で定める場合を除き、発注者と受注者を拘束しません。確認した範囲では、約款が発注者への提出を求めているのは請負代金内訳書であり、実行予算ではありません。

実行予算の費目は何で構成されるのか?

実行予算の費目は会社ごとに設計できますが、建設業の会計には、国が定めた原価の区分があります。あわせて、発注者側の積算の区分も確認します。

完成工事原価報告書の4つの区分

建設業法施行規則の別記様式に基づく完成工事原価報告書では、原価が材料費、労務費、外注費、経費の4つに分けられます。国土交通大臣の定める勘定科目の分類では、それぞれ次のように示されています。

区分内容
材料費工事のために直接購入した素材、半製品、製品などの費用。仮設材料の損耗額を含む
労務費工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料、手当など
外注費工種や工程別などの工事について、素材や製品などを作業とともに提供し、完成することを約する契約に基づく支払額
経費材料費、労務費、外注費以外の費用。動力用水光熱費、機械等経費、保険料、従業員給料手当、法定福利費、通信交通費など

実行予算の費目を同じ4つの区分で組むと、完成後の決算の数字と実績を対応させやすいと考えられます。民間の解説でも、材料費、労務費、外注費、経費に分けて費目を整理する例が見られます。

発注者の積算は共通費の区分で組まれる

国土交通省官庁営繕部の公共建築工事では、工事費は直接工事費、共通費、消費税等相当額で構成されます。共通費は、次の3つに区分されます。

  • 共通仮設費は、準備費、仮設建物費、動力用水光熱費などで、直接工事費に対する比率または積み上げで算定する
  • 現場管理費は、労務管理費、租税公課、保険料などで、純工事費に対する比率または積み上げで算定する
  • 一般管理費等は、一般管理費と付加利益等からなり、工事原価に対する比率で算定する

付加利益等には、法人税等、株主配当金、役員賞与、内部留保金、支払利息などが含まれます。発注者の積算の区分と自社の実行予算の費目は、そのままは一致しません。

入札金額に含まれる一般管理費等や利益を、自社の本社経費や利益の見込みとどう対応させるかを整理しておくと、原価の見通しを持ちやすくなります。

実行予算の作成手順は?

実行予算の作成手順に、法令上の定めはありません。民間の解説では、次のような流れが紹介されています。

作成の流れは5つの段階

  1. 受注金額と契約条件(工期、支払サイト、変更条項)を確定する
  2. 施工計画を確定し、工種ごとの数量を施工手順に沿って拾い直す
  3. 下請や資材業者への引合いで、見積単価を発注見込みの単価に置き換える
  4. 自社施工分の労務費を、投入する人員構成と歩掛で積み上げる
  5. 現場管理費、仮設費、重機損料を工期に合わせて計上し、予備費の枠を明示する

作成に入る前に、次の資料を集める流れも紹介されています。

  • 設計図面と仕様書
  • 契約書
  • 過去の実行予算や見積のデータ

作成した実行予算は、関係部門や協力会社に共有して承認を得る流れも紹介されています。

協力会社の見積は外注費の土台になる

外注費は、協力会社の見積単価を、発注見込みの単価に置き換えて組みます。見積の前提条件や含まれる業務の範囲が曖昧なままだと、実行予算の数字と実際の発注額がずれる原因になります。

協力会社は、付き合う会社によって見積もり価格を変えます。

月1本2本の入札をしている会社と月10本20本30本入札している会社では、どちらの方がより良い見積もり価格を提示してもらえるでしょうか。やはり多く入札している、成長している会社の方が良いです。

実行予算は作成後どう管理するのか?

実行予算は、作って終わりではなく、施工中に実績と比べて使います。民間の解説では、次のような見方が紹介されています。

原価の消化率と出来高の達成率を並べて比べる

実行予算に対する原価の消化率と、契約金額に対する出来高の達成率を並べて見る方法です。原価の消化率が出来高の達成率を上回る工事は、予算を先に使っている状態で、赤字の兆候とみなされます。

乖離をどの程度で問題とするかは工種によって変わるため、解説も一律の数値は示していません。

当初予算と改訂後予算の両方と比べる

追加変更で実行予算を改訂した場合は、当初の予算と改訂後の予算を両方残して比べます。比べる相手によって、分かることが異なります。

比べる相手分かること
当初予算施工計画が妥当だったかどうか
改訂後予算現場の管理が適切だったかどうか

公共工事で実行予算の考え方が重視される理由は?

実行予算は社内の資料ですが、原価を把握する考え方は、近年の制度改正とも結びついています。公共工事に関わる2つの制度を確認します。

令和7年12月12日から原価割れ契約が受注者にも禁止された

令和7年12月12日に施行された改正建設業法で、通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金とする契約の禁止が、受注者にも導入されました(第19条の3第2項)。従来は注文者に限られていた原価割れ契約の禁止が、建設業者にも課されています。

例外となる正当な理由は、施行規則第13条の11で次の3つとされています。

  • 自らが保有する低廉な資材を建設工事に用いることができる
  • 先端的な技術や蓄積された知識、技術、技能の活用により、工事原価の低減が図られている
  • 原価に満たない金額で契約することについて、緊急の必要その他やむを得ない事情がある

公共工事の入札では金額の内訳の提出が求められる

入札契約適正化法第12条は、建設業者が公共工事の入札の申込みの際に、材料費、労務費などの内訳を記載した書類を提出するよう定めています。発注者は、提出された書類の内容の確認その他の措置を講じなければなりません(第13条第1項)。

国土交通省は、直轄工事で令和7年12月12日以降に入札手続を開始する工事から、工事費内訳書に材料費、労務費、法定福利費、建設業退職金共済契約に係る掛金、安全衛生経費の記載を求めています。当面の間の取扱いも示されているため、具体的な運用は発注者ごとの入札公告などで確認します。

入札前の見積段階から原価の見通しを持つ

実行予算は契約後に組む社内資料で、発注者に提出する書類ではありません。ただ、原価に満たない金額での契約を避け、入札時の内訳を適切に作るには、入札前の見積段階で原価の見通しを持つことが前提になると考えられます。

実行予算の考え方は公共工事の受注にどうつながるのか?

原価を事前に把握する考え方は、公共工事の入札で金額を決める場面でも土台になります。公共工事では、入札金額の内訳の提出が制度として定められているためです。

  • 入札前に、材料費、労務費、外注費、経費の見通しを持つ
  • 協力会社の見積を、発注見込みの単価に置き換えて外注費を組む
  • 受注後は、実行予算と実績を比べて、原価の超過を早く見つける

公共工事は大手や実績のある会社のもの、と受け止められることがあります。ただ、入札参加の要件は制度として明確に定められており、要件を満たせば会社の規模にかかわらず参加できる仕組みです。

公共工事への参入に向けた全体像は、下記で詳しく確認できます。

よくある質問

実行予算は、見積を作った担当者がそのまま作成してよいのか?

法令に定めはなく、社内の運用によります。民間の解説では、見積担当が実行予算も作ると自分の見積を否定しにくく、数字が横滑りしやすいため、作成と承認を分けることが紹介されています。人数が限られる場合は、承認の段階だけでも別の人が確認する形が考えられます。

実行予算の区分は、どのくらい細かく分ければよいのか?

法令に定めはありません。民間の解説では、差異が出たときに打てる手があるかどうかで粒度を決めるとされています。目安として、1億円規模の建築工事で工種30〜50区分、1,000万円規模の改修工事で10区分前後という例が挙げられていますが、あくまで一例です。

工事の途中で追加変更が出たら、実行予算はどうするのか?

民間の解説では、原価が発生する前に書面で変更指示を受け、変更契約と実行予算の改訂をセットで行うとされています。改訂版には版番号を付け、当初の予算と改訂後の予算の両方を残します。

労務費と外注費は、どう区分すればよいのか?

国土交通大臣の定める勘定科目の分類では、労務費は直接雇用の作業員に対する賃金などです。工種や工程別などの工事の完成を約する契約で、その大部分が労務費であるものは、労務費に含めて記載でき、その支払額は「うち労務外注費」として示します。

民間の解説は、雇用関係の有無で判断し、社内の規程で統一することを勧めています。

まとめ

実行予算は、受注した工事を完成させるために、受注金額の範囲で原価を組み立てる社内の計画です。法令や公的な基準で定められた用語ではなく、積算、見積書、請負代金内訳書とは、作る時期と提出先が異なります。

費目は、完成工事原価報告書の区分に合わせて材料費、労務費、外注費、経費で組むと整理しやすくなります。令和7年12月12日からは受注者にも原価割れ契約の禁止が適用され、入札前の見積段階から原価の見通しを持つことが重要になっています。

本記事の内容は2026年10月執筆時点の情報のため、実際の運用にあたっては、発注者の入札公告や契約書の最新の内容を確認してください。

この記事のまとめ
  • 実行予算は受注後に社内で組む原価計画で、発注者へ提出する書類ではない
  • 費目は材料費、労務費、外注費、経費の4区分で整理し、完成後の実績と対応させる
  • 施工中は、原価の消化率と出来高の達成率を比べて、原価の超過を早く見つける
  • 入札前の見積段階から、原価と入札金額の内訳の見通しを持つ

より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。

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