社長が現場代理人を兼ねてよい?下請に現場代理人が不要なケースを解説

監修情報

水嶋 拓

フロンティアマーケティング株式会社代表取締役。2009年から公共工事コンサルタントとして活動し、450社以上の中小建設会社の経営を支援。2017年に同社を設立し、現在は公共工事研究会も主宰している。著書に『日本一ハードルの低い公共工事の始め方』。

公共工事に参入したばかりの中小建設会社では、現場に立つ人員が限られているため、社長自身が現場代理人を務められるかどうかが実務上の関心事になりやすいポイントです。現場代理人の設置義務は建設業法ではなく契約書類に基づくため、主任技術者や監理技術者の配置義務とは根拠が異なります。

この記事では、現場代理人の契約上の位置づけを整理した上で、社長が兼任する際の契約上の制限と法令上の制限を解説し、常駐義務の緩和条件や、下請に配置義務がない理由まで扱います。

公共工事入札について、一般的な情報だけでは見えない視点があります。この動画で実務的なポイントを先に理解することで、記事の内容がより腹落ちしやすくなります。動画を見てから記事を読み進めることをおすすめします。

この記事で分かること
  • 現場代理人は建設業法ではなく、公共工事標準請負契約約款に基づく契約上の役割である
  • 社長が現場代理人を兼ねること自体は契約上一律に禁止されていないが、営業所技術者等や経営業務管理責任者との常勤要件との抵触に注意が必要になる
  • 現場代理人の常駐義務は、工事の規模や発注者との連絡体制などの条件を満たせば緩和が認められる場合がある
  • 下請には、元請と同様の強い現場代理人の設置義務が条文上明記されているとは言えない
目次

現場代理人とは何か?根拠は建設業法ではなく公共工事標準請負契約約款

現場代理人は、建設業法に基づく制度ではありません。公共工事の発注者と受注者(元請業者)との間で交わされる契約書類のひな形である「公共工事標準請負契約約款」に基づいて設置される、契約上の役割です。

同約款第10条第1項は、受注者が工事現場に設置し発注者に通知すべき者として、現場代理人・主任技術者(監理技術者)・専門技術者の3者を挙げています。現場代理人はこのうちの一つとして位置づけられています。

この約款は発注者(公共団体等)と受注者(元請業者)の間の請負契約に組み込まれるものであり、法律そのものではありません。現場代理人の設置は、この契約に基づく義務であるという点をまず押さえておく必要があります。

現場代理人が持つ権限の範囲

同約款第10条第2項は、現場代理人について「工事現場に常駐し、その運営、取締りを行うほか、請負代金額の変更、請負代金の請求及び受領…並びにこの契約の解除に係る権限を除き、この契約に基づく受注者の一切の権限を行使することができる」と定めています。

請負代金の変更や契約解除といった重要な権限を除き、現場運営に関する幅広い権限を発注者との関係で行使できる立場にあたります。

役割設置根拠権限の性質
現場代理人公共工事標準請負契約約款第10条発注者との契約に基づく代理権限(請負代金の変更・契約解除を除く)
主任技術者・監理技術者建設業法第26条施工の技術上の管理を行う法律上の配置義務
専門技術者公共工事標準請負契約約款第10条附帯工事等の技術上の管理を行う契約上の役割

現場代理人の設置根拠は主任技術者・監理技術者とどう異なるのか?

現場代理人と主任技術者・監理技術者は、同じ約款第10条第1項に列挙されていますが、根拠となる制度が異なります。現場代理人は契約上の代理人であるのに対し、主任技術者・監理技術者は建設業法第26条に基づいて設置が義務付けられる、法律上の技術者です。

この違いは、約款上の解除事由の重さにも表れています。同約款第47条三号は「第十条第一項第二号に掲げる者を設置しなかったとき」を発注者による契約解除事由の一つとして明記していますが、これは主任技術者・監理技術者(二号)を指しており、現場代理人(一号)の不設置は同号に明記されていません。

  • 現場代理人は約款上の契約上の代理人であり、資格要件の定めがない
  • 主任技術者・監理技術者は建設業法上の配置義務であり、資格・実務経験等の要件がある
  • 主任技術者・監理技術者の不設置は約款上の契約解除事由として明記されている

なお、同約款第10条第5項は「現場代理人、主任技術者(監理技術者)及び専門技術者は、これを兼ねることができる」と定めており、同一工事内であれば現場代理人が主任技術者等を兼任すること自体は約款上認められています。

社長は現場代理人を兼任できるのか?

結論として、現場代理人という契約上の地位そのものに、社長が就くことを一律に禁じる規定はありません。ただし、実際に兼任できるかどうかは、契約上の制限と法令上の制限を分けて確認する必要があります。

契約上の制限はあるのか

公共工事標準請負契約約款は、現場代理人の資格要件や身分(雇用形態)について特段の定めを置いていません。ある自治体の現場代理人に関するQ&Aでは「現場代理人は、社長の代理人として、工事現場に常駐し…当該契約に基づく受注者の権限…を行使することができる者をいう。当県では、社長が現場代理人の権限を行使することは可能としています」と回答しています。

ただし、これは一つの自治体における運用上の回答であり、すべての発注者が同様に扱うとは限りません。発注者によっては、社長が現場代理人となることを認める例があるという程度の理解にとどめ、実際に入札を予定している発注機関の取り扱いは個別に確認しておくことが実務上の対応になります。

法令上の制限はあるのか

契約上の制限とは別に、建設業法上の要件との抵触という論点があります。前述のQ&Aは続けて「社長が、建設業法上の営業所の専任技術者や経営業務管理責任者になっている可能性があり、それらの者は営業所に専任しなければならないこととなっているため、社長が現場代理人になる場合には、注意が必要です」と述べています。

中小建設会社では、社長が営業所技術者等(専任技術者)や経営業務管理責任者を兼ねているケースが少なくありません。これらの立場には営業所への常勤が求められるため、工事現場に常駐する現場代理人との兼任は、実務上の制約を受けることになります。

この制約は現場代理人という契約上の地位そのものの制限ではなく、営業所技術者等・経営業務管理責任者の常勤要件との抵触という、建設業法側の論点です。社長が現場代理人を兼ねるかどうかを検討する際は、自社における営業所技術者等・経営業務管理責任者の兼務状況をあわせて確認しておく必要があります。

一方で、社長が現場に張り付くこと自体が必要かどうかという論点もあります。民間工事と公共工事では、現場の役割の性質が異なるためです。

民間は施工と顧客の信頼が軸ですが、公共工事は発注者の検査に合格すればよいため、社長が現場に張り付かなくても売上を作れると考えています。

  • 契約上は、現場代理人の資格要件そのものに社長を排除する定めはない
  • 発注者によって、社長が現場代理人となる取り扱いを認めるかどうかの運用は異なりうる
  • 社長が営業所技術者等・経営業務管理責任者を兼ねている場合、常勤要件との抵触に注意が必要になる

現場代理人の常駐義務はどのような条件で緩和されるのか?

公共工事標準請負契約約款第10条第2項は、現場代理人の工事現場への常駐を原則の義務としています。ただし同条第3項は「発注者は、前項の規定にかかわらず、現場代理人の工事現場における運営、取締り及び権限の行使に支障がなく、かつ、発注者との連絡体制が確保されると認めた場合には、現場代理人について工事現場における常駐を要しないこととすることができる」と定めています。

国土交通省の通知(国土建第161号)は、常駐義務の緩和が認められうる考え方を示しています。まず、契約後の準備期間や工事の全部一時中止期間中は、常駐を要しないことがあるとされています。

そのうえで、次の2つをいずれも満たす場合に常駐義務を緩和できるとしています。

  • 安全管理、工程管理等の工事現場の運営、取締り等が困難なものでないこと(主任技術者又は監理技術者の専任が必要とされない程度の規模・内容であること)
  • 発注者又は監督員と常に携帯電話等で連絡をとれること

この通知はさらに、他工事の現場代理人・技術者等との兼任が可能となる典型例として、兼任する工事件数が少数であること、現場間の距離が一定範囲内であること、発注者等が求めた場合には速やかに現場に向かう対応がとれることを挙げています。

緩和の考え方内容
準備期間・全部一時中止期間契約後の準備期間や工事の全部一時中止期間中は常駐を要しないことがある
基本的な緩和条件工事現場の運営・取締り等が困難なものでないこと(主任技術者等の専任が必要とされない程度の規模・内容)、かつ発注者又は監督員と常に携帯電話等で連絡をとれること
他工事との兼任の典型例兼任件数が少数であること、現場間の距離が一定範囲内であること、要請時に速やかに現場に向かえること

この通知は同時に「上記によっても、建設業法第二十六条第三項に基づく主任技術者又は監理技術者の専任義務が緩和されるものではないことに留意する必要がある」とも明記しています。現場代理人の常駐義務緩和と、建設業法上の主任技術者・監理技術者の専任義務は別の制度であり、一方が緩和されても他方が自動的に緩和されるわけではありません。

具体的にどこまで緩和が認められるかは発注者(公共発注者)の判断によるため、社長が複数現場の現場代理人を兼ねることを検討する場合は、入札を予定している発注機関にあらかじめ確認しておくことが実務上の対応になります。

なお、社長が現場から離れるタイミングは、会社の成長にも関わる論点です。現場を任せられる体制ができるまでは、離れる時期を見極める必要があります。

成長を目指すなら、社長は早く現場を離れるべきだと考えています。後継者がいなければ、外注先に任せる方法もあります。

下請に現場代理人の配置義務がないのはなぜか?

公共工事標準請負契約約款は、発注者と受注者(元請業者)との間の請負契約に用いられるひな形です。現場代理人の設置義務(同約款第10条第1項)は、この発注者・受注者間の契約に基づくものにとどまります。

一方、元請業者と下請業者との間の契約には、別のひな形として「建設工事標準下請契約約款」が用いられます。同約款第10条にも現場代理人に関する規定があり、現場代理人を置くこと自体は下請契約においても想定されています。

ただし、公共工事標準請負契約約款第47条のように「現場代理人を設置しなかったとき」を契約解除事由として明記する規定は、建設工事標準下請契約約款上では確認できませんでした。発注者・元請間の契約には現場代理人の設置義務が明記されているのに対し、元請・下請間の契約には同様に強い設置義務の明記が見当たらないという条文上の対比があります。

下請業者が現場代理人に相当する担当者を置く場合でも、その位置づけは発注者との契約に基づく元請の現場代理人とは性質が異なります。下請段階の体制整備を検討する際は、この条文上の違いを踏まえておくことが実務上の目安になります。

  • 現場代理人の設置義務は発注者・元請間の公共工事標準請負契約約款に基づくものである
  • 元請・下請間の建設工事標準下請契約約款にも現場代理人に関する規定はあるが、性質が異なる
  • 下請段階では、元請と同様の強い設置義務が条文上明記されているとは言えない

公共工事に参入したばかりの会社では、現場代理人の配置一つを取っても契約上の位置づけを正しく理解できていないことが、入札後のつまずきにつながる場合があります。特に社長が現場に立つことの多い中小建設会社では、現場代理人の常駐義務や兼任の可否が、経営体制そのものの見直しにつながる論点になります。

制度の前提を押さえた上で、自社の体制でどこまで対応できるかを整理していくことが、公共工事への参入・受注を安定させる出発点になります。

公共工事は大手企業や実績のある会社でなければ参入できない事業だと受け止められることがあります。ただし入札参加の要件は制度として明確に定められており、要件を満たせば会社の規模にかかわらず参加できる仕組みになっています。現場代理人の常駐や兼任のルールも、この制度上の要件の一部として位置づけられます。

よくある質問

現場代理人には資格や実務経験の要件があるのか?

公共工事標準請負契約約款は、現場代理人の資格要件や実務経験について特段の定めを置いていません。主任技術者・監理技術者のように建設業法上の資格・実務経験要件が課される役割とは異なる点です。

現場代理人が常駐しない期間、発注者への手続きは必要か?

常駐を要しないと認められる場合でも、発注者との間で運営・取締りに支障がないことや連絡体制の確保が前提になります。事前に発注機関の担当窓口へ相談し、必要な手続きを案内に沿って行うことが実務上の対応になります。

一つの工事で現場代理人と主任技術者を兼ねる場合、注意点はあるか?

同一工事内での兼任は公共工事標準請負契約約款上認められていますが、発注者への通知の際には兼任している旨を明記する必要があります。様式や記載方法は発注機関ごとに指定が異なる場合があるため、事前に確認しておくと安心です。

下請業者が現場代理人を置く場合、元請への通知は必要か?

建設工事標準下請契約約款第7条一号は、現場代理人及び主任技術者の氏名を元請負人への通知事項として挙げています。下請業者が現場代理人に相当する担当者を置く場合は、その氏名等をあらかじめ元請に通知しておくことが実務上の対応になります。

まとめ

現場代理人は建設業法上の制度ではなく、公共工事標準請負契約約款に基づく契約上の役割です。主任技術者・監理技術者が建設業法に基づく法律上の配置義務であるのに対し、根拠となる制度が異なる点がまず押さえるべき前提になります。

社長が現場代理人を兼ねること自体は契約上一律に禁じられていませんが、発注者の取り扱いや常勤要件との抵触に注意が必要です。常駐義務は条件を満たせば緩和される場合があり、下請には元請と同様の強い設置義務は条文上明記されていません。

この記事のまとめ
  • 現場代理人は公共工事標準請負契約約款に基づく契約上の役割であり、建設業法上の制度ではない
  • 社長が現場代理人を兼ねること自体は一律に禁じられていないが、発注者の運用や常勤要件との抵触を確認する必要がある
  • 常駐義務の緩和や兼任の可否は、入札を予定している発注機関に事前に確認しておく
  • 自社の体制でどこまで対応できるかを整理し、公共工事への参入・受注に向けた準備を進める

より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。

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