建設業のM&Aとは?実施するメリットや買収・売却の相場を徹底解説

監修情報

水嶋 拓

フロンティアマーケティング株式会社代表取締役。2009年から公共工事コンサルタントとして活動し、450社以上の中小建設会社の経営を支援。2017年に同社を設立し、現在は公共工事研究会も主宰している。著書に『日本一ハードルの低い公共工事の始め方』。

中小建設会社では後継者不在を背景に、事業を引き継ぐ手段としてM&Aを検討する動きが広がっています。M&Aは廃業を避けて事業を継続できる選択肢になり得る一方、建設業許可や技術者の扱い、経営事項審査への影響など、建設業ならではの論点があります。

この記事では、建設業M&Aで得られるメリットと、許可・技術者・経審の評点がどう扱われるかの考え方を整理します。買収・売却価格についても、断定的な相場ではなく何によって決まるかという視点で解説します。

2024年問題、人手不足、資金繰り…建設業界が直面する課題は山積みです。こうした環境だからこそ、経営の安定化には新たな収入源の確保が重要。この動画では、民間工事とは異なる公共工事という選択肢の実務的なポイントをおさえています。動画で基礎を理解した上で、記事の詳しい解説をご覧ください。

この記事で分かること
  • 建設業M&Aは後継者不在への対応として、売り手は事業継続や譲渡益を、買い手は許可・技術者の確保を含む事業拡大のメリットを得られる可能性がある
  • 建設業許可は株式譲渡なら原則継続する一方、事業譲渡・合併・分割では事前の認可申請が必要になる
  • 専任技術者(営業所技術者等)や監理技術者の地位は個人に紐づくため、M&Aで自動的に引き継がれるわけではない
  • 経営事項審査の評点はM&A後の技術者数や経営状況次第で変動し、買収・売却価格も建設業特有の要素を踏まえて考える必要がある
目次

建設業のM&Aとは?後継者不在を背景に広がる事業承継の手法

建設業のM&Aとは、合併や買収に加えて、株式譲渡や事業譲渡といった手法によって事業を第三者に引き継ぐことを指します。

後継者が見つからないまま廃業すると、これまで培ってきた許可や実績、取引先との関係が失われてしまいます。M&Aは、こうした後継者不在の課題に対する選択肢の一つとして位置づけられます。

帝国データバンクの調査によると、建設業の後継者不在率は2024年時点で59.3%となっており、全国平均52.1%を上回っています。調査対象となった7業種の中でも高い水準です。

ただし2018年の71.4%からは12.1ポイント低下しており、改善傾向にある点も執筆時点のデータからうかがえます。

区分後継者不在率
建設業(2024年)59.3%
全国平均(2024年)52.1%
建設業(2018年)71.4%

建設業は他業種と比べて後継者不在率が高い水準にあり、廃業ではなく第三者への承継を選ぶ動機が相対的に生じやすい業種だといえます。背景には、経営者の高齢化に加えて、許可要件を満たす後継人材の確保自体が難しいという業界特有の事情もあります。

次の項目からは、売り手・買い手それぞれの立場から見たメリットを整理します。

建設業M&Aで売り手側にはどんなメリットがある?

売り手側から見ると、M&Aには後継者不在でも廃業せずに事業を継続できるという選択肢が生まれるメリットがあります。事業を停止せずに従業員の雇用や取引先との関係を維持できる可能性がある点は、廃業との大きな違いです。

経営者が保有株式や事業を譲渡することで譲渡益を得られる点や、経営者としての責任やリスクから解放される点も、一般的に整理されているメリットです。

  • 後継者不在でも廃業せず事業を継続できる
  • 譲渡によって経営者が売却益を得られる
  • 経営者としての責任やリスクから解放される
  • 従業員の雇用先を確保できる可能性がある

建設業M&Aで買い手側にはどんなメリットがある?

買い手側は、許可を持つ会社を譲り受けることで、許可の取得や技術者の確保、取引先との関係構築を一から行う手間を省ける点が一般的なメリットとして挙げられます。

建設業特有の観点では、技術者や有資格者を確保できる点や、経営事項審査(経審)の実績を一定程度引き継げる場合がある点が、他業種のM&Aにはない要素として上乗せされます。経審への影響の詳細は後述します。

買い手側のメリットは、手間や実績の引き継ぎだけではありません。事業を一から立ち上げる場合、採用や教育、取引先の開拓に時間がかかる点も考慮する必要があります。

会社を一から作るより、出来上がった会社を買う方が時間の節約になると考えています。M&Aは時間を買う手段です。

  • 建設業許可や有資格者を一から確保する手間を省ける可能性がある
  • 事業拡大や人材確保を短期間で実現できる
  • 取引先や契約関係を引き継げる
  • 完成工事高などの実績を経審で一定程度引き継げる場合がある

M&Aの手法によって、経営体制の一体化の度合いも変わります。株式譲渡で譲渡対象の会社を別法人のまま存続させる場合と、合併によって一つの法人に統合する場合とでは、経審の実績引き継ぎ方や社内体制の作り方が異なるため、どちらの形を目指すかを早い段階で整理しておくことが実務上のポイントになります。

株式譲渡によって譲渡対象の会社を別法人のまま存続させた場合、グループとして複数の建設業許可業者を保有する形になります。ただし、資本関係のある複数法人が同一の入札案件にそれぞれ応札する場合は、実質的に一体の経営とみなされたり、独占禁止法・入札談合等関与行為防止法上の問題を指摘されたりしないよう、独立した経営体制・意思決定プロセスを保つことが前提になります。この点は発注者の入札参加資格の取り扱いも含め、専門家や発注機関に個別に確認しながら進める必要があります。

建設業許可はM&Aでどう引き継がれる?

M&Aを実施する際、建設業許可がどう扱われるかはスキームによって異なります。令和2年10月1日施行の改正建設業法により、事業承継等についてあらかじめ認可を受けることで、建設業許可業者としての地位を空白期間なく承継できる制度が新設されました。

それ以前は事業譲渡や合併・分割を行った場合、承継後の法人が許可を新たに取り直す必要があり、許可が下りるまで工事を請け負えない空白期間が生じていました。この制度によって、承継の手続き自体は以前より整理された形になっています。

株式譲渡なら建設業許可は原則として継続する

株式譲渡の場合、法人格自体は変わらないため、建設業許可は原則として継続します。代表者や役員が交代する場合は、変更届の提出で対応するのが一般的な整理です。

株式譲渡は法人格の変更を伴わないため、事前認可の制度そのものの対象にはならず、通常の変更届出の枠組みで手続きを進めることになります。譲り受ける側にとっても、比較的シンプルなスキームだといえます。

組織再編を伴うスキームでは事前の認可申請が必要になる

事業譲渡や合併・会社分割によって建設業部門を引き継ぐ場合は、あらかじめ認可を受ける必要があります。認可を受けずに実行すると、許可は自動的には引き継がれません。

事業譲渡について整理が分かれて見えるのは、譲渡する範囲によって扱いが変わるためです。建設業法第17条の2第1項が承継の対象としているのは建設業の「全部」の譲渡であり、この場合はあらかじめ認可を受けることで譲受人が建設業者としての地位を承継します。

一方、建設業の一部だけを譲渡する場合はこの規定の対象外です。譲受人は自ら新規に許可を取得する必要があります。どちらに当たるかは譲渡の範囲で決まるため、スキームを固める段階で許可行政庁に確認しておくと手戻りがありません。

スキーム建設業許可の扱い
株式譲渡法人格が変わらないため原則継続する。役員変更等は変更届で対応する
事業譲渡(全部)事前に認可を受ければ承継できる(法第17条の2第1項)
事業譲渡(一部)承継の対象外。譲受人が新規に許可を取得する
合併・会社分割事前に認可を受けなければ許可は自動的には引き継がれない

M&Aで技術者の資格はどう扱われる?

専任技術者(令和6年12月13日施行の改正で「営業所技術者等」に名称変更)や監理技術者としての地位は、会社の資産ではなく技術者本人に紐づきます。そのためM&Aを実施しても、技術者が売り手から買い手へ在籍を継続するかという人的要素によって、承継の成否が左右されます。

経営業務管理責任者についても、建設業経験年数などの要件を満たす常勤役員が必要とされており、M&A後も要件を満たす人材を確保できるかが許可維持の前提になります。役員としての在籍だけでなく、経験年数の要件を満たしているかどうかもあわせて確認が必要です。

  • 専任技術者・監理技術者の地位は個人に紐づき、会社の資産として自動的に移転しない
  • 主要な技術者が退職すると、営業所の技術者要件や監理技術者の専任要件を満たせなくなる可能性がある
  • 経営業務管理責任者の要件を満たす常勤役員の確保も、許可維持の前提になる

建設業M&Aは経営事項審査(経審)の評点にどう影響する?

経営事項審査(経審)は建設業法第27条の23第2項に基づく法定の審査制度で、経営状況(Y)と、経営規模(X)・技術力(Z)・社会性等(W)から成る評価を数値化するものです。公共工事を直接請け負おうとする建設業者は、受審が義務付けられています。

M&A実施後は、技術職員数の増減や自己資本比率の変動、経営状況分析の結果次第で、経審の評点(特に技術力Zや経営状況Y)が変動する可能性があります。技術者が減少すれば技術力の評点が下がり得る一方、買い手企業が技術者を多数抱えている場合はプラスに働く可能性があります。

譲渡前にどの技術者が引き続き在籍する見込みかを把握しておくことが、評点変動を予測するうえでの手がかりになります。

評点を左右するのは技術者だけではありません。M&Aでは、事業の実績や創業からの歴史も譲渡の対象になります。

M&Aで従業員や資格者、協力会社、銀行との関係まで一度に手に入ります。公共工事では、創業歴や実績も引き継げる点が大きいと考えています。

また、令和2年の改正前から、合併・会社分割・事業譲渡・相続によって建設業を承継した場合に、被承継事業者の完成工事高や技術職員数を一定程度引き継いで経審を受けられる特例的な扱いがあるとされています。

  • 技術職員数の増減
  • 自己資本比率など経営状況分析の結果
  • 承継時に一定の実績を引き継げる特例的な扱いの有無

建設業M&Aの譲渡価格はどう決まる?

建設業M&Aの譲渡価格は、単純な売上や利益水準だけでなく、業界特有の要素が影響するとされています。特定の倍率や金額があらかじめ決まっているわけではなく、会社ごとの実態を踏まえて個別に検討されるものです。

中小企業のM&A全般でよく使われる考え方として、時価純資産額に営業権(のれん代)を加える算定方法があり、のれん代は実質営業利益のおおむね2〜5年分とされることが多いという整理が複数の専門コラムで紹介されています。

ただし業種や会社ごとに条件は異なるため、この年数や倍率がそのまま自社に当てはまるとは限りません。

価格の決め方と同様に、初めてのM&Aでどの規模の会社を対象にするかも、会社ごとに検討が必要です。

初めてなら、売買価格が数百万円の案件から始めるのが安全だと考えています。

建設業特有の要素として、許可の種類や経審点数の推移、有資格者の在籍人数、官民工事の受注バランス、特定の元請への依存度、簿外債務の有無などが挙げられます。これらは前述したメリットや経審への影響とも重なる部分が多く、日頃の許可・技術者管理の状態が譲渡価格の評価にも波及すると捉えておくとよいでしょう。

帝国データバンクなど信用調査機関が算出する評点も、譲渡価格や取引先与信の評価に影響し得る要素の一つとされています。評点は財務内容や経営者の資質などをもとに算出されるものであり、M&Aに伴う経営体制や財務内容の変化が、承継後の評点に影響する可能性があります。

  • 建設業許可の種類・更新状況
  • 経営事項審査の点数とその推移
  • 信用調査機関(帝国データバンク等)の評点
  • 専任技術者(営業所技術者等)や有資格者の在籍人数
  • 官民工事の受注バランスや受注残高
  • 特定の元請への依存度、簿外債務の有無

建設業M&Aの検討は公共工事参入のどの段階に位置づけられる?

ここまで見てきたように、建設業M&Aは後継者不在という経営課題への対応であると同時に、許可や技術者、経審評点の引き継ぎ方によって、その後の受注機会にも影響する経営判断です。

公共工事は大手や実績のある会社だけのもの、と受け止められることがあります。ただ、入札参加の要件は制度として定められており、要件を満たせば会社の規模や成り立ち(M&Aによる承継か創業からの継続か)にかかわらず参加できる仕組みです。

M&Aによって許可や経審評点を引き継いだ後の経営においても、公共工事という選択肢は事業機会の一つとして検討する余地があります。

  • 後継者不在という課題への対応としてM&Aを検討する
  • 許可・技術者・経審評点がどう引き継がれるかを確認する
  • 引き継いだ体制を踏まえて公共工事参入という選択肢を検討する

よくある質問

建設業M&Aで株式譲渡を選べば、許可の手続きは一切不要ですか?

株式譲渡は法人格が変わらないため許可は原則継続しますが、代表者や役員が交代する場合は変更届の提出が必要です。役員変更に伴い経営業務管理責任者などの要件を満たす人材がいなくなる場合は、許可維持に影響する可能性があります。

建設業M&Aは売上規模の小さい会社でも対象になりますか?

規模の大小だけで対象から外れるわけではありません。買い手にとっては建設業許可や専任技術者の在籍、経営事項審査の実績自体に価値があるため、売上規模が小さい会社でも検討の対象になり得ます。譲渡条件や評価の考え方は会社ごとの実態によって異なります。

M&A後に経審の評点は必ず下がりますか?

必ず下がるわけではありません。技術職員数や自己資本比率などの変動次第で評点は上下し得るため、M&A実施前に技術者の在籍状況を確認しておくことが判断材料になります。

建設業M&Aの検討はいつ頃から始めるとよいですか?

許可の承継手続きや技術者の在籍確認には一定の準備期間がかかるため、早めに情報収集を始めておくと選択肢の幅が広がります。後継者不在が明確になってから慌てて検討するより、余裕を持って進める方が望ましいといえます。

まとめ

建設業M&Aは、後継者不在という経営課題に対応しながら、売り手は事業継続や譲渡益を、買い手は許可や技術者の確保を含めた事業拡大を得られる可能性がある手法です。

ただし建設業許可や専任技術者の承継、経審評点への影響はスキームや技術者の在籍状況によって変わるため、慎重な確認が欠かせません。買収・売却価格も画一的な相場があるわけではなく、業界特有の要素を踏まえた考え方で捉える必要があります。日頃の許可・技術者管理の状態を把握しておくことが、M&Aの検討をスムーズに進める土台になります。

この記事のまとめ
  • 建設業は後継者不在率が他業種より高く、M&Aによる第三者承継のニーズが相対的に高い
  • 建設業許可は株式譲渡なら原則継続し、事業譲渡・合併・分割では事前の認可申請が必要になる
  • 専任技術者や監理技術者は個人に紐づくため、在籍状況を確認したうえでM&Aを検討する
  • 買収・売却価格は業界特有の要素を踏まえた考え方で捉え、公共工事参入の可能性もあわせて検討する

より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。

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