建設業2024年問題は無理?そう言われる理由と現実的な対応策


時間外労働の上限規制への対応を考えたとき、「うちのような下請の立場では無理だ」と感じる経営者の方もいるのではないでしょうか。工期のしわ寄せや価格転嫁の難しさは、個々の会社の努力だけでは解決しにくい構造的な要因を背景に持っています。
この記事では、2024年問題が「無理」と言われる理由を重層下請構造・工期・価格転嫁の観点から整理したうえで、下請構造内での立ち位置の見直しなど、経営構造としての現実的な対応の方向性を解説します。
2024年問題、人手不足、資金繰り…建設業界が直面する課題は山積みです。こうした環境だからこそ、経営の安定化には新たな収入源の確保が重要。この動画では、民間工事とは異なる公共工事という選択肢の実務的なポイントをおさえています。動画で基礎を理解した上で、記事の詳しい解説をご覧ください。
- 「2024年問題への対応は無理」という感覚の背景には、重層下請構造による工期・原価のしわ寄せがある
- 建設工事の請負契約には下請法が適用されず、価格転嫁は建設業法の規律に委ねられている
- 令和6年建設業法改正により、著しく低い労務費や著しく短い工期での契約締結が禁止された
- 下請構造内での立ち位置の見直しや価格交渉の材料整備が、経営構造としての現実的な対応になる
建設業の2024年問題は無理と言われるのはなぜ?
時間外労働の上限規制そのものは、勤怠管理の見直しやICT活用など自社の努力で対応できる部分もあります。それでも「無理」という声が根強いのは、規制の対応が個社の努力だけで完結しない構造的な要因を抱えているためです。
特に工期と原価の面では、自社より上位に位置する取引先の意思決定に左右される場面が多く、下請の立場が下がるほど裁量の余地が狭くなるという実情があります。この構造を先に理解しておくことが、対応の方向性を見誤らないための前提になります。
重層下請構造が生む工期・原価のしわ寄せ
建設業では、元請のもとに1次下請、2次下請、さらにそれ以下の下請企業が連なる重層下請構造が一般的です。専門化・分業化への対応という点で一定の合理性がある一方、施工の役割・責任の所在が不明確になりやすく、下位下請ほど対価の減少や労務費へのしわ寄せを受けやすいという弊害が国の審議会資料でも指摘されています。
民間団体が108現場の施工体系図を分析した調査では、下請次数が3次までで完結する工事が全体の86.0%を占めた一方、最も重層化している工事では5次まで下請が存在し、工期が長い工事ほど重層化しやすい傾向も確認されています。
賃金の改定状況を見ても、元請・1次下請では4〜5割の企業が技能者の賃金を引き上げたと回答したのに対し、3次以下の下請企業では3〜4割にとどまっており、次数が下がるほど処遇面で不利になりやすい傾向がうかがえます。
| 指標 | 調査結果 |
|---|---|
| 下請次数が3次までで完結する工事の割合 | 108現場中86.0% |
| 技能者の賃金を引き上げた企業の割合(元請・1次下請) | 4〜5割 |
| 技能者の賃金を引き上げた企業の割合(3次以下の下請) | 3〜4割 |
この構造は、上位下請から見た全体工期だけでなく、下位下請が上位からの指示待ちや後工程のしわ寄せを受けやすいという、発言力・調整力の差からも「工期が無理だ」という感覚を生みやすくします。
一般社団法人日本建設業連合会は2009年の提言以来、重層化した下請発注を「可能な分野で原則2次(設備工事は3次)以内を目指す」という目標を掲げており、一部の地方公共団体でも独自に下請次数を制限する取組が導入されています。
人手不足の中で工期を確保できない経営構造の実情
人手不足そのものの一般論は他記事に譲りますが、経営構造として見たときには、重層下請構造の中で下位に位置するほど、工程の調整に関する意見や提案が元請に届きにくいという実情があります。国土交通省の「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」でも、上限規制への対応に向けた生産性向上の取組の一つとして「重層下請構造の改善」が明記されています。
下位の下請ほど工程を組み替える裁量が小さく、上位からの指示や後工程の変更をそのまま受け止めざるを得ない場面が生じやすくなります。この立場の違いこそが、同じ上限規制でも「対応できる会社」と「無理だと感じる会社」の差を生む一因といえます。
価格転嫁が進みにくい商慣行にも理由があるのか?
労務費や資材費が上昇しても価格に転嫁しづらいという声も、2024年問題への対応を難しくする要因の一つです。この背景には、建設業の下請取引を規律する法律の枠組みそのものに関わる事情があります。
建設業の下請取引に下請法が適用されない事情
下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、2026年1月の改正により「中小受託取引適正化法(取適法)」へ名称が変更されました。改正後も、対象となる委託の類型に建設工事の請負契約は含まれておらず、適用対象から除外されている点は変わっていません。
この法律は、建設工事の請負契約をその適用対象から明確に除外しています。建設業を営む者が業として請け負う建設工事を、他の建設業を営む者に請け負わせる取引は、下請法上の規制対象である「役務提供委託」の定義から除かれており、建設工事の下請取引は建設業法の規律に委ねられています。
そのため、製造業などで下請法に基づいて講じられてきた保護策は、建設工事の請負契約には直接及びません。価格転嫁が進みにくいという商慣行の背景には、こうした法制度上の位置づけの違いも関係しています。
建設業法による取引適正化の動き
建設業では、下請法に代わって建設業法が下請取引の適正化を規律しています。令和6年の建設業法・入契法改正では、中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成・勧告できることとされ、この基準に照らして著しく低い労務費等での見積り依頼・提出・契約締結が、下請取引を含むすべての建設工事の請負契約において禁止されました。
この基準は令和7年12月2日に中央建設業審議会から勧告され、同月12日に改正建設業法が全面施行されています。
あわせて、資材の供給不足・価格高騰の「おそれ情報」を契約前に通知する義務や、著しく短い工期での契約締結の禁止も盛り込まれています。国土交通省は毎年10〜12月を「建設業取引適正化推進期間」と位置づけ、建設Gメンによる下請取引の実態調査や、建設業法令遵守ガイドラインの周知も行っています。
| 制度・取組 | 内容の概要 |
|---|---|
| 労務費に関する基準 | 著しく低い労務費等での見積り・契約締結を禁止する下限的な基準 |
| 資材高騰おそれ情報の通知義務 | 資材の供給不足・価格高騰の見込みを契約前に発注者へ通知 |
| 著しく短い工期の契約締結禁止 | 受注者の発意による極端な短工期契約を禁止 |
| 建設業取引適正化推進期間 | 毎年10〜12月に建設Gメンが下請取引の実態を重点調査 |
中小企業庁は、労務費上昇分などの価格転嫁を後押しするため、価格交渉ハンドブックやコスト費目別の交渉フォーマットといった支援ツールも公開しています。全業種横断の調査では、価格転嫁率(コスト増加分に対してどの程度価格に転嫁できたか)が54.2%という結果も出ており、業種を問わず転嫁が思うように進んでいない企業が一定割合存在する状況がうかがえます。
「無理」と決めつける前に検討したい経営構造の見直し
重層下請構造や価格転嫁の難しさは個社の努力だけで解消できるものではありませんが、経営構造の観点から見直せる余地は残されています。国の資料でも、重層下請構造の発生要因を専属型・繁忙期型・代理店型に整理したうえで、それぞれに対応の方向性が示されています。
下請構造内での立ち位置を見直す
専属型(直用技能者の外注化に伴う重層化)には技能者の社員化やグループ化、繁忙期型(繁閑対応のための下請発注)には施工時期の平準化、代理店型(資材調達等を行う商社が施工体制に入ることによる重層化)には一括下請負基準の明確化・法令遵守の徹底が、それぞれ改善の方向性として位置づけられています。
自社がどの発生要因に近いかを整理することは、下請構造内での立ち位置を見直す出発点になります。
専門工事業者が中核的な技能労働者を直接雇用しやすい環境を整えることも、下位下請への再委託に頼らない体制づくりの選択肢の一つとして、国の資料に位置づけられています。外部人材の活用という経営判断自体を否定するものではなく、あくまで再委託への依存度を減らす方向性の一例として捉えておくとよいでしょう。
価格交渉の材料を制度面から整える
令和6年建設業法改正により、著しく低い労務費や著しく短い工期での契約締結が禁止されたことで、下請企業が価格交渉・工期交渉を行う際に参照できる制度的な基準が整いました。基準があること自体が交渉を有利にすると断定はできませんが、協議の材料として活用できる環境が制度面で整備されてきていることは押さえておく価値があります。
あわせて、公正取引委員会と内閣官房が連名で策定した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」では、発注者側に対し労務費上昇を理由とする価格転嫁の協議に応じることや、価格転嫁を求めたことを理由に取引停止等の不利益な取扱いをしないことが求められています。こうした指針の存在を知っておくことも、交渉の場で自社の主張を整理する助けになります。
いずれの制度も、交渉を自動的に有利にするものではなく、あくまで協議の土台となる基準や考え方を示すものです。制度の存在を把握したうえで、自社の見積り根拠を整理し、取引先との協議に臨む姿勢が現実的な対応になります。
- 自社が重層下請構造のどの発生要因(専属型・繁忙期型・代理店型)に近いかを整理する
- 著しく低い労務費・著しく短い工期の禁止規定を、価格交渉・工期交渉の材料として把握しておく
- 中小企業庁の価格交渉ハンドブック等の支援ツールを確認する
- 再委託に頼らない体制づくりの一環として、外部人材活用を含む人員体制の選択肢を検討する
2024年問題への対応を、公共工事参入の視点から捉える
重層下請構造の中で下位に位置するほど、工期や価格の面で不利になりやすいという構造は、民間工事・公共工事を問わず存在します。
ただし、公共工事の入札参加は制度として要件が明確に定められており、要件を満たせば会社の規模にかかわらず参加できる仕組みです。
下請構造内での立ち位置に「無理」を感じている場合、発注者から直接工事を請け負う立場を選択肢の一つとして把握しておくことは、経営構造を見直すうえでの視点になります。公共工事は御社に向かないと決めつける前に、参入の要件や進め方について情報を集めてみるのも一つの方法です。
公共工事参入の準備には、自社の状況を踏まえた情報収集や整理といった一定のステップが伴います。まずはどこから着手できるかを整理することが、経営構造を見直す最初の一歩になります。
- 工期は発注者が定め、著しく短い工期での契約は制度上禁止されている
- 労務費の基準により、著しく低い労務費での見積り依頼・契約締結が禁止されている
- スライド条項により、資材価格の変動を契約金額に反映できる仕組みがある
- 元請として直接受注できれば、下位下請として受けるより価格交渉の余地が生まれる
よくある質問
- 重層下請構造は建設業法で禁止されていますか?
-
重層下請構造そのものが一律に禁止されているわけではありません。ただし、実質的に施工に関与しない業者を挟む「一括下請負」は建設業法で原則禁止されており、国土交通省がその判断基準を明確化しています。
- 下請法が使えないなら、価格転嫁を求める手段はありませんか?
-
下請法は使えませんが、建設業法上の著しく低い労務費・著しく短い工期の禁止規定や、公正取引委員会の価格交渉に関する指針など、価格転嫁を後押しする制度上の枠組みは整備されています。中小企業庁の支援ツールも交渉の材料として活用できます。
- 下請の立場から元請に工期や価格の相談を持ちかけても大丈夫ですか?
-
建設業法では、著しく低い労務費や著しく短い工期での契約締結が禁止されており、こうした基準に照らして協議すること自体は制度上想定された行為です。個別の交渉の進め方は取引先との関係性によりますが、根拠となる制度を把握したうえで相談することは可能です。
- 経営構造の見直しは、規模の小さな会社でも取り組めますか?
-
下請構造内での立ち位置の整理や、公的機関が提供する価格交渉の支援ツールの活用は、会社の規模を問わず着手できる取り組みです。まずは自社がどの発生要因に近いかを整理するところから始められます。
まとめ
2024年問題が「無理」と言われる背景には、重層下請構造による工期・原価のしわ寄せと、価格転嫁が進みにくい商慣行があります。これらは個社の努力だけでは解消できない構造的な要因です。
一方で、令和6年建設業法改正による労務費基準の整備など、交渉の材料にできる制度も整いつつあります。自社の立ち位置を整理し、価格交渉の準備を進めることが現実的な対応の第一歩です。
下請構造内での不利な立場に限界を感じる場合は、公共工事という選択肢も、経営構造を見直す視点の一つとして検討する価値があります。
- 「2024年問題は無理」という感覚の背景には、重層下請構造による工期・原価のしわ寄せがある
- 建設工事の請負契約に下請法は適用されず、価格転嫁は建設業法の規律に委ねられている
- 自社が重層下請構造のどの発生要因に近いかを整理し、下請構造内での立ち位置を見直す
- 制度が整いつつある価格交渉の材料を把握し、公共工事という選択肢もあわせて検討する
より理解を深めていただくために、こちらの解説動画も併せてご確認ください。
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