工事進行基準とは?完成工事高の計上基準と経審への影響を解説

監修情報

水嶋 拓

フロンティアマーケティング株式会社代表取締役。2009年から公共工事コンサルタントとして活動し、450社以上の中小建設会社の経営を支援。2017年に同社を設立し、現在は公共工事研究会も主宰している。著書に『日本一ハードルの低い公共工事の始め方』。

建設会社の決算では、完成工事高をいつ計上するかという論点があります。工事の完成を待って計上するのか、工事の進み具合に応じて計上するのかによって、決算書の姿は大きく変わります。

この記事では、工事進行基準の仕組みと工事完成基準との違い、会計上の適用の考え方、そして計上基準の選択が経審(経営事項審査)の評点に与える影響について整理します。

公共工事入札について、一般的な情報だけでは見えない視点があります。この動画で実務的なポイントを先に理解することで、記事の内容がより腹落ちしやすくなります。動画を見てから記事を読み進めることをおすすめします。

この記事で分かること
  • 工事進行基準と工事完成基準の違いと、完成工事高の計上時期
  • 企業会計原則における長期の請負工事の扱いと適用の考え方
  • 収益認識に関する会計基準への移行と、税務上の取り扱いとの関係
  • 計上基準の選択が経審の評点に与える影響
目次

工事進行基準とは何か?完成工事高の計上方法の違いを確認する

工事進行基準とは、工事の進捗度合いに応じて、完成工事高(収益)と工事原価(費用)を計上する方法です。これに対し、工事が完成して目的物を引き渡した時点で一括計上する方法が工事完成基準です。

企業会計原則では、売上高は実現主義の原則に従って計上することとされ、長期の未完成請負工事等については合理的に収益を見積って当期の損益計算に計上できるとされています。注解7では、長期の請負工事について工事進行基準と工事完成基準のいずれかを選択適用できるとされています。

項目工事完成基準工事進行基準
収益の計上時期工事の完成・引渡し時工事の進捗に応じて各決算期に計上
決算書の姿完成するまで売上が立たない工事期間中も売上・利益が計上される
適用の考え方長期の請負工事について選択適用できる(企業会計原則注解7)同左。上場企業等は収益認識に関する会計基準による

工事完成基準では、工事期間が決算期をまたぐと、完成するまで売上が計上されません。工事進行基準では、工事期間中に進捗に応じて売上と利益が計上されるため、決算書の姿が異なります。

工事進行基準の適用要件と選択の考え方

工事進行基準を適用できるのは、工事の進行程度を信頼性をもって見積ることができる場合です。企業会計原則の注解7は、長期の請負工事について工事進行基準と工事完成基準のいずれかを選択適用できるとしています。

適用にあたっては、工事収益総額と工事原価総額、決算日における工事の進捗度を、信頼性をもって見積ることができることが前提になります。進捗度の算定には、工事原価の実績額を基準とする方法などが用いられます。

  • 企業会計原則:長期の請負工事について、工事進行基準と工事完成基準のいずれかを選択適用できる(注解7)
  • 収益認識に関する会計基準:上場企業等に適用される。工事契約に関する会計基準は同基準の適用に伴い廃止された
  • 税務上の長期大規模工事:法人税法施行令で請負の対価の額など一定の要件が定められており、会計上の基準とは必ずしも一致しない

上場企業等に適用されていた企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」は、収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)の適用に伴い廃止されました。2021年4月1日以後開始する事業年度からは、一定の期間にわたり充足される履行義務について進捗度に応じて収益を認識する扱いになっています。

税務上は、法人税法施行令で長期大規模工事の要件が定められています。会計上の基準と税務上の基準は必ずしも一致しないため、両者の関係を把握しておくことが必要です。個別の適用については、会計の実務に即して判断することになります。

工事進行基準が経審に与える影響

経審の評点は、決算書の数値をもとに算出されます。完成工事高の計上基準が変わると決算書の姿が変わるため、経審の評価材料にも影響し得ます。

経審の区分決算書との関係
X1(年間平均完成工事高)決算書の完成工事高をもとに算出される
Y(経営状況分析)完成工事高と兼業事業売上高の合計を売上高として、収益性などの指標を算出する
審査基準日原則として申請時の直前事業年度終了日(決算日)

工事進行基準を採用すると、工事期間中に売上と利益が計上されるため、決算書の完成工事高や経常利益の時期が、工事完成基準の場合と変わります。経審の点数が上がる・下がるを一概に言うことはできませんが、計上基準の選択は評点に影響し得る点を認識しておく必要があります。

また、会計処理は継続して適用することが前提とされています。計上基準を途中で変更する場合は、変更の理由と影響を明らかにする必要があります。

決算書の構造を理解しておくことは、経営者自身の責務といえます。

貸借対照表は社長1人で作るものですからね。社長の方にはしっかり見ていただきたいと思います。売上や利益は従業員にも共有するケースがあると思いますが、バランスシートを共有することはほとんどありませんので、社長がしっかり見なければいけません。

計上基準の違いが決算書のどこに表れるのかを理解しておくことは、経審の評点管理を考えるうえでの土台になります。決算書の数字がどのように評価されるのかを把握しておきましょう。

経審の評点を考えるうえでの視点

経審の評点は、経営規模(X1・X2)・経営状況(Y)・技術力(Z)・社会性等(W)の区分で構成され、総合評定値(P点)として通知されます。このうちX1とYは、決算書の数値が評価材料になる区分です。

決算書の数字をどのように作るかは、経営判断の一つです。計上基準の選択を含めて、自社の決算内容を経営者が把握しておくことが、経審の評点を考えるうえでの出発点になります。

  • 経審の評点は決算書の数値をもとに算出される仕組みである
  • 計上基準の選択は決算書の完成工事高・利益の計上時期を変え、経審の評価材料に影響し得る
  • 会計処理の継続性が前提であり、基準の変更には理由と影響の説明が必要になる
  • 自社の決算内容を経営者が把握することが、経審の評点管理の出発点になる

経審の取得は、公共工事へ参入するための前提となる手続きです。決算書の仕組みと経審の関係を理解しておくことは、参入後の評点管理にも役立ちます。

公共工事は大手や実績のある会社のもの、と受け止められることがあります。ただ、経審の制度は要件を満たせば規模にかかわらず受けることができ、決算内容の把握は、会社の規模に関係なく取り組める領域です。まずは自社の決算書から、経審との関係を確認してみることが次の一歩になります。

よくある質問

工事進行基準と工事完成基準はどちらを選ぶべきですか?

企業会計原則の注解7では、長期の請負工事について工事進行基準と工事完成基準のいずれかを選択適用できるとされています。上場企業等は収益認識に関する会計基準が適用され、工事契約に関する会計基準は廃止されました。自社の工事の規模や継続適用の考え方を踏まえて判断することが必要です。

中小企業でも工事進行基準を適用できますか?

企業会計原則の注解7により、長期の請負工事について工事進行基準を選択適用することができます。中小企業の会計に関する指針にも工事契約に関する定めがあります。適用にあたっては、指針の内容を確認することが必要です。

工事進行基準を採用すると経審の点数は変わりますか?

経審の評価材料は決算書の数値です。計上基準によって完成工事高や利益の計上時期が変わるため、決算書の姿が変われば経審の点数にも影響し得ます。点数が上がる・下がるを一概に言うことはできません。

まとめ

工事進行基準は、工事の進捗度合いに応じて完成工事高と工事原価を計上する方法です。企業会計原則の注解7では、長期の請負工事について工事進行基準と工事完成基準のいずれかを選択適用できるとされています。

上場企業等では、工事契約に関する会計基準が廃止され、収益認識に関する会計基準が適用されています。税務上の長期大規模工事の要件は会計上の扱いとは必ずしも一致しないため、違いを把握しておくことが必要です。

経審のX1やYは決算書の数値をもとに評価されるため、計上基準の選択は経審の評点に影響し得ます。自社の決算書の構造を経営者が理解することが、経審の評点管理の出発点になります。

この記事のまとめ
  • 工事進行基準は進捗に応じて収益・原価を計上する方法で、企業会計原則の注解7では長期の請負工事について選択適用できる
  • 上場企業等は収益認識に関する会計基準が適用され、工事契約に関する会計基準は廃止された
  • 経審のX1(完成工事高)・Y(経営状況)は決算書の数値をもとに評価され、計上基準の選択は評点に影響し得る
  • 決算書の構造を経営者が理解することが、経審の評点管理の出発点

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